出版翻訳の現在(2)――翻訳者の視点から 堀千恵子・越前敏弥 (2019年10月11日開催)

■ 翻訳出版研究部会 開催要旨 (2019年10月11日開催)

出版翻訳の現在(2) ――翻訳者の視点から

堀千恵子 (翻訳家)
越前敏弥 (翻訳家)

   本部会として今年度2回目の開催となった今回の研究会では、これまで数多くの話題書、ベストセラーの翻訳を手掛けてこられた2名のトップランナーの方をお招きし、主に翻訳者の視点からの議論の場を立ち上げた。

   まず、一般書から学術書まで様々なジャンルの翻訳を手掛けてこられた堀千恵子氏からは、翻訳に役立つサイトや辞典、参考書籍等々、実践的な情報の数々のご紹介があり、会場に集まった翻訳関係者たちにとってきわめて貴重な多くの知識をシェアいただいた。その上で、堀氏より、翻訳をする上では良い作品との出会いだけでなく、翻訳者と編集者の良い出会いの機会も非常に大切であり、その為のデータベースやコミュニティの構築も必要ではないかという、重要な問題提起があった。
   続いて、ダン・ブラウンをはじめとする数々のベストセラー翻訳で知られる越前敏弥氏からは、これまでの20年以上にわたる翻訳家としてのキャリアの歩みを振り返りつつ、翻訳家として自立していく上での課題から、機械翻訳時代におけるMT&PE(Machine Translator & Post Edit)などの問題にいたるまで、多様な話題について報告と解説をいただいた。さらに越前氏からは、翻訳家がただ翻訳だけをしていれば良いという時代は終わり、書店でのフェアやトークイベント、読書会や作文コンクールなど、積極的に様々な試みにコミットしていくことが必要なのだという、今後の翻訳界を考える上での重要な問題提起もなされた。そして、「なぜ翻訳の仕事をするのか」という翻訳という場を考える上で原点ともいえるテーマについても、翻訳を通じてものを学ぶということは自らの視野を広め、相対化するということであり、既存の価値観の客観化に向かうことなのだという重要な意見が提出された。

   両氏からの報告の後は会場の20名の参加者の方々からの質問と議論の時間となり、翻訳家を目指すためにはどのような勉強やトレーニングが必要なのか、といった具体的内容についても活発な質疑応答と意見交換が行われた。次回部会では主に「研究者」の視点から出版翻訳を捉える場を設定し、継続的な議論の深化に努めていく予定である。

日 時: 2019年10月11日(金) 午後6時30分~8時30分
会 場: 専修大学神田キャンパス5号館541教室
参加者: 20名 (会員7名、非会員11名、学生2名)

(文責:山崎隆広)