学術データ・データベースの今後  長塚隆 (2004年3月25日)

■ 学術出版研究部会 発表要旨 (2004年3月25日)

学術データ・データベースの今後
――パブリックドメインと知的財産権の狭間で

長塚隆

学術情報の電子化とインターネットの普及・発展は,学術出版(コミュニケーション)のあり方を,従来の印刷メディアから,新しい電子メディアへと大きく変えつつある。学術出版研究部会は,2003年度第三回研究会を開催し,この変化の状況を長塚隆氏(日本データベース協会会長,4月1日から鶴見大学教授)に,「学術データ・データベースの今後――パブリックドメインと知的財産権の狭間で」という主題で研究発表していただいた。
1時間30分に及ぶ内容豊かな講演を3つの点に絞って報告する。
第一点は学術情報とデータ・データベースの関係である。
一口に「学術情報」といっても,文献テキストとしての学術情報と数値データベース,ファクトデータベースとしての学術情報がある。「学術出版」というと文献データベースを第一に考えがちであるが,学術情報の電子化で利用が拡大しているのは,学術データ・データベースなのである。遺伝子情報,気象情報,生物多様性情報など,膨大なデータとその分析が情報の電子化とインターネットによって,学術コミュニケーションに利用できるようになったからである。
第二点は,学術情報の商業化の問題である。
学術情報の電子化がもたらした変化で重要な点は,これまで学術研究のための「学術データ・データベース」が,商業的に利用されるようになったことである。第一次世界大戦までは,学術研究それ自体として成り立った自立型の研究情報と商品化をめざした市場型研究情報は別個のものであった。しかし第一次世界大戦以降,自立型研究情報と市場型研究情報の線引きは難しくなってきている。現代においてそれは顕著であり,たとえば,国際ゲノムプロジェクトの研究情報が製薬会社により薬品の特許にされ,またこれまで商品価値がないと思われていた気象データが商品化されるなど,データベースの商業化はますます進展している。
第三は,データベースの商業化から,パブリックドメインで公開された学術情報の知的財産権がだれに帰属するかという問題が生じている。パブリックドメイン情報は「知的財産権や他の法的な条件により制約されないデータや情報であり,認可や制約なしに公的に使用できる」ものであるが,1980年以降,欧米では「知的財産権の保護」を理由に,競争的情報商品については,法的に保護を強化している。日本の著作権法では,創作性のあるデータベースは保護されるが,ファクトデータベースは保護の対象となっていない。各国で,データベースの権利保護のための新たな法制度の検討が始まっている。学術情報を公開し(パブリックなものとする),自由な学問的検討がなされることと,知的財産権を保護することのせめぎ合いは,どこに向かうかはまだ不明である。学術出版研究部会では広義の「学術情報」の公開と保護について,今後も注目していきたい。
(文責 山本俊明)