ベルリン東洋美術館所蔵『熈代勝覧』が描く江戸の出版文化  松田泰代 (2007年6月6日)

2010年 5月 13日(木曜日) 15:30
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■ 関西部会   発表要旨 (2007年6月6日)

ベルリン東洋美術館所蔵『熈代勝覧』が描く江戸の出版文化

松田泰代

 『熈代勝覧』は,紙本着色一巻,大きさ43.7×1232.2cm,ベルリン東洋美術館所蔵の絵巻物である。タイトルは,巻頭題字「熈代勝覧」から採られている。絵巻物に描かれている場所は,日本橋通りの今川橋から日本橋までの西側を俯瞰する構図で描かれている。
 成立年代は,文化年間(1804-1818)といわれている( i )。それは巻頭題字を佐野東洲(文化十一(1814)年没)が書いていると判断できること,画中に「回向院,文化二」と書かれた勧進箱が見られることから,文化二(1805)年から文化十一年に制作されたと推定できるからである。また,描かれている内容の年代は,およそ文化二年ごろといわれている(ii)。それは文化三年三月の丙寅の火事(通称牛町大火)の記録(iii)により,描かれている場所はことごとく焼失したと推測されることから,文化二年ごろと考えられている。
 俯瞰した構図で描かれていることにより,地図や絵図には表現できない三次元の都市情報を入手できる。絵巻物には,およそ7町(約764m),大通りに面した店舗約90軒,登場人物1671人,犬20匹,馬13頭,牛4頭,猿1匹,鷹2羽,そして富士山が描かれている(iv)。また,店舗の看板や暖簾,旗などの文字情報を克明に描き込んである。それゆえに,この絵巻物は史料として意味を持つ。
 この絵巻物には,出版業と販売業を同時に営んでいた当時の本屋が3軒描かれている。本銀町二丁目に須原屋善五郎,本町二丁目北に出雲寺和泉(掾),室町二丁目に須原屋市兵衛が住所情報を含めて描かれている。『熈代勝覧』に描かれている本屋の広告札に書かれている書籍名と本屋の関係について論じ,『熈代勝覧』の成立に関する考察を行なった。(松田泰代)


( i )浅野秀剛, 吉田伸之編『大江戸日本橋絵巻』講談社 , 2003年
  小澤弘, 小林忠著『『熈代勝覧』の日本橋』小学館, 2006年
  東京都江戸東京博物館編『大江戸八百八町展 : 江戸開府四百年・開館十周年記念』東京都江戸東京博物館 , 2003年
  三井記念美術館編『日本橋絵巻』三井記念美術館, 2006年
(ii)同上
(iii)黒木喬著『江戸の火事』(同成社江戸時代史叢書4)同成社, 1999年
  高輪和岳寺門前牛町出火,大名小路・京橋・日本橋・神田・浅草が焼けた。幅7町,長さ2里余(約764×7850m),大名屋敷80余,神社20余,寺院60余,町数530余が被災,焼死者1200人余。この火事後,初めて御救小屋が17カ所に設置された。建設費用550両ほど,総救済費用は4906両余に達したといわれている。
(iv)前掲 『『熈代勝覧』の日本橋』