デジタル環境下における出版と図書館  湯浅俊彦 (2009年9月25日) 

関西部会 発表要旨 (2009年9月25日)

デジタル環境下における出版と図書館
湯浅俊彦

 2008年10月,米国でグーグル「ブック検索」著作権訴訟の和解案がまとまり,出版社や作家からなる非営利組織が「版権レジストリ」を作り電子データの扱いを登録することで公開の仕方をコントロールすることになった。この和解案が米国外で出版された書籍にも適用されることが明らかになったために,日本の著作権者や出版社にとってはまさに「黒船来航」のような事件となった。
 このグーグル「ブック検索」著作権訴訟をめぐる経緯は以下の通りである。
 2004年にグーグルはハーバード大学,スタンフォード大学,ミシガン大学,オックスフォード大学,ニューヨーク公共図書館の5つの図書館と提携して蔵書をデジタル化する図書館プロジェクトを発表し,2005年より書籍のデジタル化を開始した。これを受けて2005年9月,作家協会(Authors Guild)と全米出版社協会(Association of American Publishers)は書籍を許諾なしにデジタル化することが著作物の複製にあたり,著作権者の複製権を侵害するとして提訴した。一方,グーグルは図書館の資料をデジタル化し,その一部を閲覧できるようにすることは米国の著作権法で認められているフェアユースにあたると反論した。
 2008年10月の和解案は次のような意味を持つ。
(1)グーグルによる書籍の巨大データベースの完成を意味し,
(2)世界の出版コンテンツをグーグルが統括し,
(3)日本の出版社にとっては権利ビジネスの空洞化が明白になった。
 一方,日本の国立国会図書館も資料のデジタル化を着実に進めようとしている。それは次のような経緯を辿っている。
(1)2009年3月,著作権者団体,出版社団体,大学および公共図書館をメンバーとした「資料デジタル化及び利用に係る関係者協議会」の第5回協議において資料デジタル化及び利用に関わる第一次合意事項が承認され,
(2)2009年5月には所蔵資料を大規模にデジタル化する127億円の補正予算が成立し2011年度までに約90万冊の資料をデジタル化することが決まり,
(3)2009年6月,国立国会図書館所蔵資料の原本の保存を目的とした資料のデジタル化に関する改正著作権法が成立し,
(4)2009年7月,納本制度審議会で国立国会図書館長よりオンライン出版物の納本制度への組み込みについて議論を要請する発言があった。
 このような出版コンテンツのデジタル化の進展という環境下において,出版と図書館のはたすべき役割について改めて整理する必要がある。そして読者や利用者にとってなにが必要かを協議し,出版界と図書館界を中心とする具体的なしくみ作りが喫緊の課題であろう。
(湯浅俊彦)