変革期を迎える出版流通システム (2014年4月2日)

■関西部会 発表要旨(2014年4月2日)

〈緊急シンポジウム〉
変革期を迎える出版流通システム――最近の事例から

 現在,日本の出版業界では大手取引書店の帳合変更に端を発した取次店の経営再建問題など,出版流通の制度的疲労とも思えるさまざまな事態が出現している。小売書店数の減少,アマゾン・ジャパンの躍進,新古書市場の形成,電子書店の登場など,近代出版流通システムは大きな変革期を迎えていることは明らかである。
 関西部会では,このような日本の出版流通における産業的実態を直視し,出版メディアの現況を検討することによって,出版学の立場からこれからの出版流通を展望するために,緊急シンポジウムを企画した。
 パネリストに永井祥一会員(日本出版インフラセンター・専務理事),福嶋聡会員(ジュンク堂書店難波店・店長),湯浅俊彦会員(立命館大学文学部・教授)が登壇し,最初に永井会員から変革期にある業界動向について問題提起を行っていただいた。
 永井会員は日本出版インフラセンターによるコード標準化,緊急デジタル事業,フューチャー・ブックストア・フォーラムなどの取組みを紹介した後,経営再建問題に揺れる取次店の事例について検討した。
 大手出版社だけでなく,アマゾンに対抗する楽天が取次を支援したことで話題になったが,これはリアル書店の大切さと取次の持つ物流力のすごさを楽天が認識したからであると解説した。また,JPOが実験するリアル書店での電子書籍の販売について,それは無理であると批判的に取り上げられた。しかし,読者は3年経ったら消滅してしまうようなデバイスは購入しないため,このままでは多数が外資系に走ることになってしまう。外資系は消費税を支払わず,国内の電子書店は5%,8%,10%と税率が改定されることによって競争力を失ってしまうことになるだろう。また,電子出版権に関しては著作権法改正により,紙は出版社,電子は配信業者となる可能性がある。このような状況下で痛み止め注射をいくら打ってもだめであり,パラダイムシフトは電子書籍によって起こっていることを認識しなければならない。アマゾンと楽天,そして緊急デジタル化事業も電子出版権もそこでつながっている。ただ電子書籍は10%から15%程度の市場規模くらいに留まり,紙の本の分野は流通網を整備することで増えるのではないか,と論じた。
 これを受けて福嶋会員は,アマゾンの強さを認めながらも,書店スタッフがこの本をどこに置いたらよいか頭を悩ませる本がじつは一番面白い,そうした本当に新しい本をアピールできるのが書店空間であって,アマゾンのリストでは難しいと書店の可能性を訴えた。また注文品に関しては納期が言えることが商売では当たり前のことであり,アマゾンに可能なことを日本の書店に出来ないわけがないと,日本の出版流通システムにまだまだ改善の余地があるという認識を示す。
 また,湯浅会員は主に1980年代以降の取次・書店現場におけるコンピュータ化による書誌情報・物流情報のデジタル化の歴史的経緯を概観し,現在の出版コンテンツのデジタル化が及ぼす出版流通システムの変容こそが取次店の経営問題の本質ではないかと分析した。
 会場の参加者からは江上敏哲著『本棚の中のニッポン』(笠間書院,2012年)が問題提起しているように,海外の日本研究にとって日本語タイトルの電子書籍の不足が指摘されており,なぜ日本の出版社は学術書の電子化に積極的ではないのかという発言があった。これに対して,永井会員は大きなマーケットではないために日本の出版社に意識されていないと答えた。また,会場に参加していた出版社のうち日本出版インフラセンターの近刊情報センターに情報提供しているところは2社で,初めて聞いたところも1社ということが明らかになった。その他にもフロアから様々な発言があり,会場参加者は34名と盛況であった。
(文責:湯浅俊彦)