出版史研究の手法を討議するその5:明治期の出版研究 樋口摩彌・磯部敦 (2015年9月19日)

■関西部会 発表要旨(2015年9月19日)

出版史研究の手法を討議するその5:明治期の出版研究

樋口摩彌 (同志社大学大学院院生)
磯部 敦 (奈良女子大学)

「出版史研究の手法を討議するその5:明治期の出版研究」では樋口会員・磯部会員による報告を行った。各報告は以下のとおり。


樋口摩彌

「近世書林と出版社の接続点――明治前期の新聞・雑誌研究より」

 報告者は博士論文執筆における研究手法を3点報告した。第1は研究対象地域および期間にて発行された新聞・雑誌を把握する悉皆調査である。この近世書誌学に取材した調査により,先行研究の2倍以上の新聞雑誌の発行を確認した。また汎用性の高いその調査方法が,全国各地の新聞研究を刺激する可能性を述べた。第2はこれまでの新聞研究ではさほど使用されてこなかった古文書などの一次史料の運用である。各地域の資料館等に所蔵される史資料を発掘し,新事実を解明する重要性を述べた。第3は新聞発行が,近世の出版社,近代の都市形成,教育制度より発展したことに基づき,新聞および出版研究が近世出版史,都市史,教育史など,様々な学問領域に波及する可能性を述べた。
 報告後の質疑応答では,布令書や新聞の受容風景,明治初年における新聞と雑誌との区別,京都における新聞発行の特徴について主に議論がなされた。


磯部 敦

「明治期の出版(社)史料について」

 出版史研究において,既存の出版史資料の検討はもちろん,まだ見ぬ史資料発掘の努力が必要なのはいうまでもないが,加えて,これまで看過されてきた史資料の再発見もまた必要であること,これまた言を俟たない。
 上記をふまえて本発表では,(1)起業就業案内書の言説と,(2)紙型という視点の有効性と限界について報告した。(1)について,具体的な情報源や実際の利用者などに資料的限界はあるものの,諸職の同時代相を浮上させうる可能性を持っていることを指摘した。個々の言説それじたいよりも,まとまりとして扱うべき資料「群」である。
 また(2)について,原物が遺存しないことによる実態の不透明性という限界はあるものの,異本発生のしくみ,流通的側面からの解釈も可能な視点であることを指摘した。紙型という視覚を,経験論から方法論として提示しなおすためにはさらなる諸本調査・分析を要するが,現状,書物の物質的側面の方法論的検証はいまだきちんとなされているとは言いがたく,出版史研究における必須の課題である。
(文責:中村 健)