活版から電子ジャーナルへ  中野 潔 (2003年8月25日)

■ 関西部会   発表要旨 (2003年8月25日)

活版から電子ジャーナルへ
中野 潔

 2003年8月25日,大阪駅前第2ビル6階 大阪市大 文化交流センターで,中西秀彦氏講演による関西部会研究会「活版から電子ジャーナルへ」が開催された.
 中西氏は,明治3年創業時の木版,20世紀末まで続いた活版,今も続いている平版,そして今後のキーになると考えているデジタルの4つの方式の流れから話を起こした.そして,デジタルのもたらす具体例として,オンデマンド印刷とオンラインジャーナルの2つをあげた.中西氏は,前者が「紙系の技術でハード志向」,後者が「非紙系の技術でソフト志向」と,両者は極限の姿なのだという.
 オンデマンド印刷は,マスコミの新たな形態になりうるもので,書籍流通を解体する可能性をはらむ.絶版本を出さないシステムといえ,学術書ルネサンスを呼び起こす先兵になりうる.そして,オンライン本と統合し,相互補完していくのだという.
 オンラインジャーナル(ここでは学術ジャーナルを想定)は,学会誌が乱立し,全世界を対象に検索したいといった必要性もあって育ってきた.引用ネットワークの電子化(読んでいる論文を論文Aとすると,論文Aが引用している論文にクリック1つで飛べたり,論文Aを引用している論文に飛べたりする),データベース化の2つの流れが,学術雑誌のオンライン化を推進した.
 中西印刷がオンラインジャーナルに本腰を入れる前段として,ページ物のインターネット化という段階があったという.印刷会社のノウハウをいかにインターネットに活用するのかと考えたときに,ページ物印刷物とインターネットとの相互乗り入れに挑戦してみた.そこから,学術書の進化系であるオンデマンド印刷と,学術雑誌の進化系であるオンラインジャーナルとの相互補完という境地にたどり着いたようである.
 しかし,オンラインジャーナルの発達と,被引用数で論文の価値を決める風潮の進展は,弊害も生み出している.まず,学会の仕事が学術ジャーナルの業者に移行していること,また,被引用のためには大勢力に加わった方が得であることなどから,学術ジャーナル業者の寡占化が進んでいることである.このため,学術ジャーナルの抱き合わせ販売が進み,契約費が急騰している.
 また,学術ジャーナルを紙の配達よりも電子的サービスへの継続的接続という形態で提供する傾向が強くなってきている.このため,大学図書館が契約を切ると過去の論文すべてが読めなくなったり(オプションによって回避することもできるが,その分契約金が高くなる),大学を退任した研究者が調べごとができなくなったりといった事態が出現している.
 中西印刷は,そうした寡占化の嵐の中で,学術印刷,学術出版で培ってきたノウハウを盾に,独自の道を歩もうとしている.オックスフォードとのいちはやい提携は,中西秀彦氏の先見の明の確かさを証明するものなのだろう.
(中野 潔)