『アーカイブ事典』出版とその周辺  大西愛 (2004年3月1日)

 関西部会   発表要旨 (2004年3月1日)

『アーカイブ事典』出版とその周辺
大西愛

 2004年3月1日の出版学会関西部会の研究会では,大阪大学出版会の大西愛氏に報告をお願いした.大西愛氏は大阪大学出版会で編集の仕事をする一方で,懐徳堂記念会学術専門委員,全国歴史資料保存利用期間連絡協議会理事もつとめている.
 今回は2003年11月に刊行された『アーカイブ事典』(大阪大学出版会)の共編者として今日のアーカイブ事情について報告していただいた.
 まず大西氏は『アーカイブ事典』を刊行した理由を次のように説明された.
 1997年の『文書館用語集』(大阪大学出版会)は文書館,博物館,図書館勤務の方に重宝していただいたが,用語集では範囲が狭いということで1998年,そのときの84名の執筆者に呼びかけ,『文書館事典』の編集を進めてきた.
 当時,「アーカイブ」という用語は,例えば1985年から大西氏もその設立にかかわった大阪府公文書館の館報が「大阪あーかいぶず」という名称になったくらいで新しい言葉であった.今では「NHKアーカイブズ」や「デジタル・アーカイブ」など「アーカイブ」という用語が多く使われている.「アーカイブズ」とは『文書館用語集』では「(1)史料,記録史料 (2)文書館 (3)公文書記録管理局 (4)[コンピュータ用語では,複数のファイルを1つにまとめたり圧縮したファイルのこと.]」としている.そこで今回の事典を『アーカイブ事典』としてこのたび刊行したのである.
 1988年,パリで開かれた国際文書館評議会世界大会で,フランス大統領ミッテラン氏は,次のような演説を行った.
 「すべての国のアーカイブズは過去の行為の軌跡を保存するものであり,同時に現在の問題をも照らし出してくれるものである.過去はそのままにしておくと消え去ってしまうから,記録を残すよう努力をはらわなければならない.記録を処分するかどうか,つまり生きてきた存在証明を残すかどうかは私たちの判断にかかっている.この存在証明は積み重なって世の中のできごとがどのように組み立てられているかを知る手段となり,私たち世界のすべての人びとはそれを知る権利がある.」(『アーカイブ事典』2-3ページ)
 大西氏はこの大会に参加して,この演説をじかに聴き感動したという.
 次に大西氏はL=図書館,M=博物館・美術館,A=文書館・公文書館・資料館・史料館の役割について概説し,LMAは文化のバロメーターであると指摘した.しかし,日本ではAはまだまだ充実していないという.
 また,図書館には司書,博物館・美術館には学芸員が専門職として存在するが,公文書館にはアーキビストの正式な資格はないのが現状である.
 さらに大西氏は資料保存の原則に話を展開し,出所原則・原秩序尊重の原則・原形保存の原則を具体的な事例をふまえながら解説された.
 15名の参加者からの質疑応答は活発で,市町村合併と資料保存の問題,紙やマイクロフィルム,デジタルという保存方法の問題など多岐にわたり,時間の関係上,20時半からは懇親会会場へと場所を移してさらに盛んな議論が繰り広げられた.
 出版の近接領域であるアーキビストの知見を聞くまたとない機会であった.
(文責 湯浅俊彦)