出版史研究の手法を討議するその7:出版研究とライフヒストリー研究――大宅壮一をめぐって 阪本博志・田島悠来 (2016年7月30日)

■関西部会 発表要旨(2016年7月30日)

出版史研究の手法を討議するその7
:出版研究とライフヒストリー研究――大宅壮一をめぐって

報告者:阪本博志(宮崎公立大学)
質問者:田島悠来(同志社大学)

 今回は、「出版研究とライフヒストリー研究」をテーマにワークショップ形式で開催、報告および質問などは以下の通り。

報告者要旨:阪本博志

 報告者は、2008年5月に『『平凡』の時代――1950年代の大衆娯楽雑誌と若者たち』(昭和堂、第30回日本出版学会賞奨励賞)を上梓した。これと前後して、『文学』同年3・4月号において「大宅壮一研究序説――戦間期と昭和30年代との連続性/非連続性」を発表した。
 大宅壮一(1900~1970)は、円本ブームに象徴される大衆社会化が進んだ1920年代に本格的なデビューをし、週刊誌ブームに象徴される大衆社会化が進んだ昭和30年代にあたる時期にその最盛期を迎えた。大宅のライフヒストリーを見るとき、大衆社会化と結びついた出版状況と、彼の主要な活動時期との重なりを指摘することができる。
 今回の報告では、上記拙稿から、最近の論考である「大宅壮一の戦中と戦後――ジャワ派遣軍宣伝班から「亡命知識人論」「「無思想人」宣言」へ」(『現代風俗学研究』第16号、2015年12月)「没後45年「マスコミの王様」大宅壮一の知られざるプロパガンダ映画」(『東京人』2016年2月号)にいたる研究成果を踏まえ、大宅のライフヒストリーを検討した。
付記:本報告はJSPS科研費JP15K03855による研究成果の一部である。
(阪本博志)

質問者要旨:田島悠来

 報告テーマであり、出版史研究の手法を考えるにあたりキータームとなるライフヒストリー研究について、桜井厚『インタビューの社会学』(せりか書房、2002年)に基づいて定義や種類を整理した。その上で報告者が実施するライフヒストリーのアプローチ法に関する質問や、大宅壮一を研究するにあたっての手法、それ以前に報告者が行っていた『平凡』をめぐる手法との類似点、相違点についての質問がなされた。
 会場全体からは、インタビュー手法を用いる際の留意点や調査者とインタビュー対象者との間のラポール(信頼関係)について質疑があった。そして、近年主として理系分野で着目されているオープンサイエンスを例にとり、ライフヒストリー法が抱える諸課題をどのように乗り越えていくことができるか、可能性を含めた議論が交わされた。
(田島悠来)