第11回国際出版研究フォーラムに参加して  芝田正夫 (2004年10月29日)

関西部会   発表要旨 (2004年10月29日)

第11回国際出版研究フォーラムに参加して

芝田正夫

 10月19日から2日間,中国の武漢市で第11回国際出版フォーラムが開催された。関西部会から私一人が参加したので,私見となるが,フォーラムの報告と感想を述べたい。11回を迎えた国際出版研究フォーラムは,1984年にソウルで第1回が開催され,その後,東京,北京,マニラ,クアラルンプールで開催されてきた。恒常的な事務局をもたず,大会ごとに韓国出版学会,日本出版学会,中国編輯学会などが主催するかたちをとっている。今回は主催が中国編輯学会,運営が中国湖北省編輯学会であり,会場は武漢大学国際学術交流センター(弘毅大酒店)であった。大学の施設と聞いて参加したのだが,大変豪華な高層ホテルであった。
 フォーラムの統一テーマは「出版の現在および将来に向けて-国際出版の発展の見通しを検討する」で,そのもとに9つのサブテーマが設けられていた。日本からの植田会長をはじめとする13名の参加者を含めた登録者は約70名だった。テーマに沿った個人研究発表が中心で,日本からは遠藤千舟,川井良介,下村昭夫,明星聖子の各会員が報告をおこなった。
 発表は統一テーマのもとで多岐にわたったが,特徴的なことは,出版の国際化,出版教育,国際化と著作権などに関心が集まっていたことである。
 フォーラムの共通の課題認識としては,劉杲中国編輯学会会長が開会のあいさつで具体的に述べられたと思う。それは,国家,民族,文化的な背景,学術的観点の違いを認めつつも,「出版事業を愛し,関心を持ち,研究し,平和を愛し,人類に関心を注ぎ,文明を尊ぶことを最大の共通点としたい」と強調されたことである。さらに,閉会のあいさつで,出版のもつ「文化性と経済性の矛盾」「文化的価値と商業的価値の関係」の追求などを出版の課題とされていたのも印象に残った。
 フォーラムの運営上の課題は,南韓国出版学会副会長が個人発表の中で触れられていた。テーマを集中させて課題を深めてはどうか,国際学会として恒常的な事務局が必要なのではないか,出版研究の科学的な基盤を確立する必要がある,英語で書かれたジャーナルの刊行が必要である,などを具体的に提案されていた。どれも検討すべき重要な課題であろう。
 最後に大会全体についての個人的な感想を述べたい。まず,国際学会の場での言語の問題である。中国語,韓国語,日本語の同時通訳があったが,三か国語の通訳はなかなか困難なところもあり,参加者同士の英語でのやりとりになってしまう場面もあった。主に東アジア圏の国々で構成される国際学会の場合,漢字文化圏といっても,そもそも文字すら共通性を持たなくなっており。使用言語をどうするかはむずかしい問題である。距離的には近い国であっても,出版についても各国ともそれぞれ長い伝統と文化がある。出版に関して,各国のさまざまな相違点を認めたうえで共通の課題を探ることが国際学会の目標のひとつとなろう。
 次回は2年後に日本で開催されることとなった。さらに多くの国の出版人が集まり,出版をめぐる国際的な議論が進むことを期待したい。
(芝田正夫)