「当事者が求める出版のアクセシビリティ」 松井進 (2017年10月2日開催)

■ 日本出版学会 第2回出版アクセシビリティ研究部会 開催要旨 (2017年10月2日開催)

当事者が求める出版のアクセシビリティ

松井 進 (千葉県立西部図書館司書)

 2017年度の第2回例会は、千葉県立西部図書館の松井進氏を発表者として、2017年10月2日(月)の18時半より開催された。今回は、当事者でもある松井氏から、障害者が最初から読者になるためには何が必要か、またどうしたらそのような環境が実現できるかを発表していただいた。以下、松井氏の発表の概要である。

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 一般に人は外界からの情報の80%以上を視覚を通して得ているとされる。そのため、視覚障害者は「情報障害者」ともいわれている。
 電子書籍は、音声読み上げや点字表示、画面拡大など、自分の読みやすい方法にカスタマイズして利用することができ、視覚障害者の情報取得に大きく寄与することができる。また、縦書き・横書きの変更や白黒反転、文字色・背景色の変更、現在読み上げている部分のハイライト表示などのアクセシビリティ機能が確保された電子書籍であれば、読字障害(ディスレクシア)のある人にも有効である。
 現在市販されている電子書籍は、紙の書籍と同じタイミングで販売されるケースも増えており、アクセシビリティ機能さえ十分に確保されれば、障害者も市販と同時に利用が可能となる。これまで音訳や点訳などの福祉的な配慮がなければ読者になれなかった障害者も、カスタマーとなり得るのである。このことは、障害者だけでなく、出版社にとっても有益なことであり、双方にメリットがあるといえるだろう。
 公共図書館や点字図書館などは録音資料、点字資料、拡大文字資料、電子資料、各種支援機器などの活用によって障害者の読書を支援している。電子書籍の利用環境として、近年では、Apple社のiPhoneに搭載された「Voice Over」のような音声アシスタント機能や音声読み上げ機能を持つ汎用端末が普及しつつあるが、障害者がこうした汎用端末に触れる機会はまだ少ない。アクセシビリティ機能が確保された電子書籍の普及と同時に、障害者が汎用端末に触れ、実際に体験のできる場所が身近にあることも大切である。その場所になり得るのが公共図書館や点字図書館であり、今後は汎用端末の利用支援も視野に入れて図書館ボランティア等の養成を図っていく必要があるだろう。
 amazon社のKindleや、楽天のkoboといった障害者の実用に耐え得る商業ベースの音声読み上げサービスはすでに存在している。しかし、実際に電子書籍を音声読み上げで利用してみると、動作中に突如として他の言語での読み上げに変わってしまう、ルビを二重に読んでしまう、ページが進まないなどの動作上の課題も実感している。前述の2つを含む国内で提供されている7つのサービスのうち音声読み上げが不可または不十分なものが4つもあり、全般的には、当事者の求める音声読み上げサービスの実現にはまだ至っていないといえるだろう。アクセシビリティを高めるための各事業者のこれからの対応に期待したい。

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 松井氏の発表後、参加者をまじえての活発な質疑応答が行われた。第3回例会は、2018年春ごろの開催を予定している。

参加者:20名(会員8名、一般12名)
会 場:専修大学大学院法学研究科(神田キャンパス7号館)

(文責:野口武悟)