「質的調査法としての雑誌分析」橋本嘉代(2010年10月21日)

■雑誌研究部会 発表要旨(2010年10月21日)

「質的調査法としての雑誌分析」
橋本嘉代

 日本出版学会2010年度第1回雑誌研究部会は,2010年10月21日(木)に東京電機大学神田キャンパス10号館にて開催された。今回の報告タイトルは「質的調査法としての雑誌分析」,報告者は橋本嘉代会員(お茶の水女子大学 人間文化創成科学研究科 博士後期課程 ジェンダー学際研究専攻)で,参加者は,会員12名,非会員4名の計16名であった。
 参加者の専門分野は,社会学やメディア領域のみならず,図書館情報学,経営学など多岐にわたっており,活発な意見交換が行われた。

【報告者より】
 今回の報告は,社会学的な問題関心にもとづく研究の分析手法として「雑誌」および「制作現場」を位置づけ,その可能性と限界について検討することを目的としている。報告者は,研究報告の背景として,人文・社会科学における質的研究の再評価の気運が高まっていることや「社会調査士」「専門社会調査士」の認定科目に「質的調査法」が設けられるなど,質的調査のスキルを資格として認定する動きがあることを紹介した。
 また,報告者自身が実際の分析において困難を感じた事例にもふれ,メソッド検討の必要性を訴えた。
 次に,先行研究を手法ごとに分類し検討を行ったが,そのなかでは以下のような点について述べた。
 「記者やライターが行った編集長インタビューなどを二次資料として用いた研究はしばしばあるが,学術研究として,実際にインタビューを行った事例は少ない。制作現場で働く編集者やライターに伝手がない=研究不可能,という思い込みで,研究者が積極的にアプローチせずにあきらめてしまう場合も多いといえる。しかしながら,情報を商品として扱っており“編集者は黒子”という文化が根強かった業界ならではの閉鎖性にも原因がある」「『読み』のプロでない一般の人々を対象に調査を行い,そこから自覚的な『読み』の意識を探ることは困難である。本人たちが自覚する『気晴らし』『情報収集』以外にも,明確に自覚されていないニーズがあるはずで,それを明らかにすることが重要」「内容分析は,現在では記述のための技法というよりも推論のための技法という定義が一般的であり,ジャンルごとに分類して数値化するだけで終わってしまっては,雑誌の点数が多く内容による差別化が図られている現在,あまり意味がない。また,社会的な背景の変化などを考慮しながら考察すべきであろう」(以上,抜粋)。
 また,報告者自身が現在も女性誌の現場で仕事をしており,ふだん見聞きしていることをどこまで書けるかという調査倫理,信頼関係に関する問題についても述べた。
 最後に,研究法の各々の長所と短所を見極め,明らかにしたいことにあわせて複数の方法を組み合わせ,相互補完的に分析を進める手法を模索するのがベストではないかという結論で締めくくった。
 議論が白熱したのは,質的調査法の研究に常につきまとう「客観性」と「再現可能性」の担保について,どのように考えるかである。これについては,どのようなプロセスで研究を行ったかを説得的に示す必要があるが,たとえばコンテクストの読み方など,とくに雑誌の投稿論文などにおいては,限られた文章のなかで示すことが困難な部分も多く,非常に難しい問題との意見があがった。
 また,近年の雑誌はカタログ化していて,商品の情報だけが求められているのではないかという質問があったが,「誰がその情報を提供するか」という人称性が重視される傾向は根強く,主体が有名人(タレント,プロモデル)から一般人(読者モデル)に移ってきてることにも注目すべきであるというのが報告者の見解である。
(文責:橋本嘉代)