「出版技術講座の23年の歩み」と職能教育  下村昭夫(2003年4月28日)

 出版教育研究部会   発表要旨(2003年4月28日)

「出版技術講座の23年の歩み」と職能教育

 4月28日,「理論・教育部会」(於:エディタースクール)が久しぶりに開かれ,参加者は,7名と少なかったが,「職能教育のあり方」をめぐって,熱心な議論が交わされた。以下,下村昭夫氏の「報告」をリポートする。

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 「出版技術講座」とは,1980年5月に出版労連(日本出版労働組合連合会) が開講した「本の学校=出版技術講座(職業技術講座)」のことで,23年間に亘り,自主運営されてきた。その運営に23年間携わってきた経験と「職能教育」の果たす役割と今後の展望をお話したい。

1.「本の学校=職業技術講座」の誕生
 出版技術講座の前身「職業技術講座」の誕生を「機関紙/出版労連」(1980年3月21日,第703号)は,次のように伝えている。
『人数の少ない職場で働いていると,なかなか“仕事を教えてもらう”機会が少なく,不安なままいつしか我流に陥りがちなもの。主に組合員で仕事上のベテランの方々に“一肌脱いでもらって”月2回の教室を開くことになりました。』
 第1回の主な内容は,第I課程が「本を作るための講座6講座」,第II課程が「本を売るための講座4講座」,第III課程が「出版文化論2講座」で構成されており,実務講座を出版現場のベテラン編集者・製作者などで受け持った本格的な講座となっている。

2.恒常的な「技術講座」の確立
 1980年6月に発行された「出版レポート」に出版対策委員会の試案という形で発表された『80年代の出版のあり方―出版産業政策要求20項目(試案)―我々はこう考える』が,大きな話題を呼んだ。
 その「産業政策」の具体化のため,1981年に産業政策委員会が設立され,同委員会(現在の出版・産業対策部)の役割の一つとして,「技術講座」の運営を担うことになった。
 初年度の講座内容を検討,今後は5月から6月の2ヶ月で,「本を作るための基礎知識」を中心に6講座~10講座で運営することとした。 参加対象も一般の方にも門戸を広げ,一人でも多くの参加希望者が受講できる講座とし,名称も親しみやすいように「出版技術講座」と改め,次の基本方針を定めた。
*組合員の自主的な「スキル(技能)学習」の場として,ヨーロッパの「技術教育制度」に学ぶ。
*自主運営に努め,「本部財政に頼らない」「赤字は作らないが利益をあげる必要はなし」
*受講者へのサービスに努め,「最少の費用で最大のサービスを提供する」
*節約をモットウに若干の備蓄に努め,講座運営に必要な機材・備品類の拡充を図る。
生まれたばかりの講座は,「教材はない,教室がない,お金もない」3K状態のゼロからの出発であったが,「ニューメディア・技術革新時代」を迎え,技術教育が強く求められていた。
 この基本方針に基づき,1982年の「第2回出版技術講座」から,2003年の「第23回出版技術講座」まで,労働組合の自主講座として,「本の学校=出版技術講座」が毎年行われ,60人ないし90名ほどの受講生が,この「編集者のための夜間学校」を巣立っていき,いろいろな会社で出版文化の担い手として,本や雑誌を作り続けている。23年間の延べ人数は,1850名を数えている。
 また,「電子出版講座」「DTP講座」「ホームページ作り講座」「初めてのパソコン講座」などの技術革新に対応する講座や「写真講座」「著作権講座」「原価計算講座」「製本講座」などのフォローアップセミナーにも年4回程度積極的に取り組んでおり,トータル回数は,70講座を超え,延べ2500名の参加を得ている。
 1987年10月には関西で初めての「第1回関西出版技術講座」が開講された。東京のようにエディタースクールもなく,学ぶ機会の少ない関西での「技術講座」の開催は,東京以上に困難な条件ではあるが,関係者の努力で,「第12回出版技術講座」まで開催され,延べ人数も750名を数えている。
 また,1995年には,「ビデオ 本づくりこれだけは」が完成し,「技術講座」のオリエンテーションとして,延べ30回以上に亘り上映され,見る人の共感を得るとともに「技術教育」に欠かせない教材となっている。なお,Web版の「出版技術講座」も公開されている。

3.技術講座の役割と課題
 「出版技術講座」の役割を一言で言い表すと,「本づくりの心と技を次世代に伝達する講座である」いえる。
 技術講座が20年以上も,現場の編集者に親しまれてきた主要因は「ベテランの編集者が,ノウハウを惜しむことなく公開し,本づくりの基本をわかりやすく,丁寧に伝達してきた」ことにある
 職能教育の原点は,「本づくりの心と技」を伝達することにあるが,同時に「明日すぐに役立つ技術と情報」を伝達することにある。そのために日常から,最新の出版情報とスキルの習得にチャレンジし,いち早く,その情報とスキルを普及させてゆかなければならない。22年間に亘り,この講座を支えてくれた出版現場の先輩たちに感謝するとともにお礼申し上げたい。
(諸橋泰樹)