『少女の友』と実業之日本社  岩野裕一 (2009年11月11日)

出版編集研究部会 発表要旨(2009年11月11日)

『少女の友』と実業之日本社
岩野裕一

 2009年3月,実業之日本社から刊行された『少女の友 創刊100周年記念号 明治・大正・昭和ベストセレクション』が3万部を超える好調な売れ行きを見せている。雑誌『少女の友』は明治41年2月に刊行され,戦後まで48年間にわたって続いた月刊の少女雑誌である。出版界が不況で,雑誌出版の低迷が続く中,読者とのコネクションとは何かを改めて考えさせ,少女たちに面白く,有益な読み物を届ける思いが多くの読者に支持されてきた背景と今回の100周年記念号の刊行経緯について,記念号を企画された実業之日本社の岩野裕一さんからお話しを伺った。
 『少女の友』は「少女にこそ,よきもの,かわいいもの,一流のものを」という編集方針の下に,編集者と読者の深い絆をもっとも重視した雑誌である。その編集路線は竹久夢二,川端龍子,与謝野晶子,吉屋信子,川端康成,北原白秋,中原淳一,井伏鱒二のような一流作家や画家を執筆陣にする「文芸雑誌」としての側面に加えて,編集長が主筆を兼ねることで読者にとってよき兄であり,よき教師でもあるという読者との絆を強める役割を持った。投稿ページには瀬戸内寂聴,田辺聖子など多くの作家志望者たちが投稿をしており,全国各地では読者組織による「友ちゃん会」が開催され,同誌に対する熱烈な思いをうかがうことができる。そもそも今回の企画が実現したのは「友ちゃん会」のメンバーたちによる『少女の友』の展示会が文京区の弥生美術館で開かれ,2000名もの署名が集まるなど愛読者の方々から100周年記念復刊号出版の要望があったからである。
 昭和10年代の前半は内山基が第6代主筆につき,都心部の女学生を読者ターゲットに絞った編集路線でピークを迎えた。内山主筆は中原淳一の表紙画と,今でも感心する数々の付録,時局に抵抗しながら,都心部の少女に夢と自立した生き方を勧める編集方針で多くの愛読者を引き寄せたのである。今回企画を進めた岩野さんは関東大震災で社内の保存資料が失われている状況にもかかわらず,今回の企画が実現できたのは『少女の友』のカリスマ読者たちや「友ちゃん会」の資料提供と熱意があったからだと振り返る。同時に今回の刊行を通じて雑誌の売上が低迷している中,今の雑誌出版界では読者とのコネクションが生まれていることを再認識したという。
 同企画では『少女の友 創刊100周年記念号』とは別売で啄木かるた,フラワーゲームなど愛読者には貴重な「お宝セット」も別に製作,販売しており,今年中に中原淳一の口絵を編集部でセレクトした復刻版も刊行する予定だそうだ。
(文責:蔡星慧)