雑誌人権ボックスについて  山 了吉 (2002年11月12日)

法制・出版の自由部会+雑誌部会   発表要旨 (2002年11月12日)

雑誌人権ボックスについて

 今回初の試みとして,法制・出版の自由部会と雑誌部会の合同研究会という形式を取った。2002年3月に日本雑誌協会は,「雑誌人権ボックス(Magazine Human Rights Box)」を新設した。この雑誌人権ボックスのアイデアを出した山了吉小学館総務局ゼネラルマネージャーから,この雑誌人権ボックスが設立されるまでの経緯と今後の課題等について,ご報告を頂いた後に意見の交換を行った。
 雑誌人権ボックスが設置されたきっかけは,いわゆるメディア規制3点セットであった。個人情報保護法案,青少年有害社会環境対策基本法案,人権擁護法案の3点セットに,反対の態度をとっていくためにも,雑誌業界は,人権問題に自ら対処する姿勢を示す必要があったのである。また,主な雑誌の出版社がどこも10数件の名誉毀損訴訟等を抱えている状況の中では,高額な賠償金対策としても,自主規制の問題を正面から捉えなければならなかったのである。
 2001年の秋頃から日本雑誌協会編集倫理委員会で,雑誌の報道に関する苦情の受付窓口に関することが話題に上った。11月にはそうしたものの「検討委員会」が日本雑誌協会内部で立ち上げられた。苦情の中身を審理したり,裁定を出したりする第三者機関のようなものにするのかが問題になり,何度も議論されたが,とにかく一歩踏みだそう,ということで,とりあえずは裁定等の問題は,見直し作業の中で考えることにして,雑誌人権ボックスがスタートすることとなった。
 具体的にどのようなものかというと,神田駿河台の日本雑誌協会1階会議室に「雑誌人権ボックス」のファクスが1台置かれていて,ここで苦情を受け付けている。ファクスや手紙で受けた苦情は各社に通知され,編集部側が2週間以内に申し立てた人に連絡する。話し合いの結果はすべて日本雑誌協会に報告することになっている。現在の役割は苦情の受付と報告書のやり取りにとどまっている。しかし,小学館などは,自らの誤りがはっきりすれば反論記事等の掲載にも応じる姿勢をとっている。
 その一方で,新潮社は,設立には反対しなかったものの,基本的にこのような流れには否定的な立場をとっており,各社によって自主規制の問題には温度差がある。課題は少なくない。しかし,まだ一歩踏み出しただけの段階であり,また,新聞社よりも早く業界統一の苦情処理機構を設立できたことは,評価に値する。  
(塚本晴二朗)