『書籍・雑誌の流通・取引慣行の現状―RFタグを導入した同一銘柄での〈買切と委託〉の複数取引条件の併用の試み』  大竹靖夫 (2008年7月31日)

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出版流通部会   発表要旨 (2008年7月31日)

シリーズ『出版流通の現状と未来』(4)


 好評の出版流通研究部会『シリーズ・出版流通の現状と未来』の第4回目として,「書籍・雑誌の流通・取引慣行の現状―RFタグを導入した同一銘柄での〈買切と委託〉の複数取引条件の併用の試み」が7月31日八木書店会議室において開催された。
 テーマは,第一部が,去る6月19日に開催された「第8回著作物再販協議会」における公取報告「書籍・雑誌の流通・取引慣行の現状」について,実際に再販協議会に陪席された昭和図書・社長の大竹靖夫さんに議論概要をご報告いただきました。
 第二部は,今秋,小学館が実施する「RFタグを導入した同一銘柄での〈買切と委託〉の複数取引条件の併用決定」というホットな話題に触れ,出版流通の課題について,昭和図書・社長の大竹靖夫さんと数理計画の岡野豊さんにご報告いただきました。
 時機を得た話題に参加者は,会場の定員一杯35名(うち講師2名,会員15名,非会員17名)となった。

公取レポート「書籍・雑誌の流通・取引慣行の現状」の概要
大竹靖夫

 今回の公取の調査・報告は,今春実施された公正取引委員会の各界への「ヒヤリング調査報告」に基づくレポートで,Web上で公表された「書籍・雑誌の流通・取引慣行の現状(資料1)」,「新聞の流通・取引慣行の現状(資料2)」,「音楽CDの流通・取引慣行の現状(資料3)」の三つからなっている。なお,同時に「出版業界 補助資料」も公表された。
 以下,主に「書籍・雑誌の流通・取引慣行の現状(資料1)」に関する(以下,公取レポートと略す)概要と公取レポートが提出された背景についてご報告したい。
 今回の公取レポートの特徴は,いわゆる「著作物の流通・取引慣行の弊害是正6項目」から,10年たったいま,改めて,再販協議会の設立趣旨である「関係業界の流通・取引慣行の問題や弊害是正の取り組みについて」整理した内容となっている。
 今回の「第8回再販協議会」の冒頭において,公取は,「公正取引委員会の使命が競争政策を通して,消費者の利益を確保するためにどのような方策が望ましいかという観点」から考えているとの公取の基本姿勢を強調した上で,「著作物の再販適用除外を廃止したいと考え続けている」とし,著作物再販除外の考え方について,「事業者の方が再販を取引の相手方に義務付けるということは可能」であるが,それは「取引当事者の契約によって生じる義務」であって「法律上の義務」ではないことを強調。「流通あるいは取引において問題点を是正する取組みが,著作物再販適用除外の存置の条件になっている関係にはない」「著作物の再販適用除外の下にある関係業界の流通・取引慣行の問題」は様々であり,いわゆる「弾力運用に限られるものでなく,是正6項目」全体が改善されてゆくことを望んでいると意見表明した。
 会議では,再販協議会の正式メンバーである相賀昌宏会員(小学館社長)が発言に立ち,業界の現状,RFタグ(電子タグ)の導入の試み。独占禁止法第23条第5項の運用に関する意見,公正競争規約とポイント制の問題など多岐にわたって,制約された時間の中で発言された。その時間的制約を補う形で提出されたのが「出版業界 補助資料」である。(編集部注:相賀発言は,『出版ニュース』(2008年8月中旬号)に紹介されている)。
 公取レポートは,「出版業界」の問題点を整理し,改めて出版業界が取り組まねばならない問題点を提起する形になっている。今日,お配りした資料をじっくりお読みいただいて,今後の出版界のあり方をお考えいただければ幸いである。

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 第二部は,「同一銘柄での〈買切と委託〉の複数取引条件の併用の試み」の前半は,引き続き昭和図書の大竹さんの報告,この秋,小学館が実施するRFタグ導入による同一銘柄での〈買切と委託〉の複数取引条件の併用の試みについて報告いただいた。後半は,岡野豊(数理計画)さんから,「RFタグの機能と可能性」と題して,RFタグのしくみ,実証実験での成果,コストなど今後の課題について詳細な報告をいただいた。
 この試みは,出版業界を支える「委託販売」の弊害のひとつである「返品率の増大」を解消する目的でRFタグを導入し,「書店マージンの見直し」「取次会社の物流費全般の軽減」「版元の制作コストの軽減」「読者への安定供給」など出版流通改善を目指している。
 RFタグを書店での実際販売に使用する初めての試みとなるもので,この秋,小学館が発行する「ホームメディカ 新版・家庭医学大事典」の販売条件を「委託品については通常のマージンで,買切品については書店の仕入れ正味で65%(書店マージン35%)を確保」する取引となる。RFタグの導入により,「個別識別番号」の読み取りが可能になり,〈買切と委託〉の複数取引条件の併用が実現する。業界の課題の一つであった「責任販売制」への道筋が示されたことになる。なお,買切品のやむを得ない返品については「歩安入帳」となる。
 委託品と買切品は,RFタグで区別されるとともに目でも識別できるようにスリップの「色わけ表示」が併用される。
 数理計画の岡野さんからは,RFタグのしくみ,実証実験での成果,コストなど今後の課題について詳細な報告をいただいた。
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●再販制度に関する経過
 公正取引委員会は,平成13年3月23日「著作物再販制度の取り扱いについて」を公表,次のような結論を表明した。
 『現段階において独占禁止法の改正に向けた措置を講じて著作物再販制度を廃止することは行わず,当面同制度を存置することが相当である』。そして,今後の取り組みとして,平成10年3月31日に公表された,いわゆる「是正6項目」の方策の実効性検証など著作物流通についての意見交換の場として設けられたのが,「著作物再販協議会」である。
●是正6項目
○時限再販・部分再販等再販制度の運用の弾力化
○各種の割引制度の導入等価格設定の多様化
○再販制度の利用・態様についての発行者の自主性の確保
○サービス券の提供等小売業者の消費者に対する販売促進手段の確保
○通信販売,直販等流通ルートの多様化及びこれに対応した価格設定の多様化
○円滑・合理的な流通を図るための取引関係の明確化・透明化その他取引慣行上の弊害の是正
(文責:出版流通研究部会)