「出版流通はどう変わるのか――近刊情報センター構想」永 井 祥 一(2010年8月4日)

出版流通研究部会発表要旨(2010年8月4日)

  出版流通研究部会は8月4日(水)、東京・千代田区の八木書店6階で、「出版流通はどう変わるのか――近刊情報センター構想」をテーマに研究発表会を行った。 日本出版インフラセンター(JPO)では、このほど、まだ刊行されていない出版物の情報を一元的に収集し、オンライン書店やリアル書店など の配信する「近刊情報集配信センター」構想を立ち上げた。 この構想が実現し、近刊情報集配信センターの活用が始まれば、委託制度のもとで“需要”を基づかない“見計らい送本”により、返品リスクを抱えていた書籍流通に根本的な変化をもたらす可能性を秘めている。果たしてこの構想、出版業界の救世主になれるのか? 

 出版流通の抱える諸問題を考える部会を開催し、日本出版インフラセンター・近刊情報EDI標準化推進ワーキンググループ座長の永井祥一さん(講談社/営業管理部、会員)にご報告をお願いした。
 参加者は、講師も含め28名(内会員15名、会員外13名)。以下、永井会員の報告骨子をご紹介する。

 

「出版流通はどう変わるのか―近刊情報センター構想」     

永 井 祥 一

 

日本出版インフラセンター(JPO)の「近刊情報センター構想」が、年内にはテスト稼働する見通しだ。

新刊書の発売前に「著者」「タイトル」「定価」などの基本情報をセンターのサーバーに落とし込み、書店に提供したうえ、店頭・外商で事前予約が取れる環境を整備することが目的である。

出版社では、事前リサーチを図り、需要予測の精度を上げて、返品削減に結び付ける狙いもある。この書誌情報は、ISBNの付いた新刊書に限定されており、発売後は削除される。

出版社は、センターのホームページに公開するフオーマットに、新刊書の書誌基本データを書き込む。基本情報はISBNなど50項目あるが、必須は19項目である。

また、表紙やチラシ、注文書などの画像も表示できるようにし、店頭でのPOPなどに活用できるようにする。

発売日や定価など、変更があればドンドン上書きして修正して欲しい。

まずは、参加出版社と点数の拡大を優先して進める方針である。

JPOでは、発売二カ月前から近刊情報を受付けてサーバーで管理し、書店やネット書店、取次会社で広く活用することを呼びかけていきたい。

現在、出版社では、講談社、小学館、集英社、版元ドットコムが参加の意思を表明し、大手・中堅の8社でも、参加の方向で検討をしているので、テスト稼働時には、170社程度でのスタートとなる見通しだ。

一方、書店では、紀伊國屋書店やアマゾンジャパン、ネット21などが参加する方針である。各社では、これまでも独自に近刊情報を収集し、そのデータを事前予約や配本に生かしていたが、この近刊情報センターを活用することでより効率的で広域な情報収集を図る考えだ。

また、現在、態度を保留している書店でもシステム会社の対応が可能になり次第、参加する意向が伝えられており、来年には相当の数になると思われる。

センターの利用・参加費用については、無料にしたいと思っている。

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「情報格差のある地方の書店も同じスタートラインに立ってもらい、拡売に繋げて欲しい」と永井さんは言う。

長年、日本出版インフラセンターでRFタグの導入など、出版流通の改善とインフラの整備にご尽力された永井さんの「書店再生=出版再生」の夢のひとつが、実を結ぼうとしている。

 

(文責:出版流通研究部会)