「再販・グーグル問題と流対協」 高須次郎(2010年5月20日)

出版流通研究部会 発表要旨(2010年5月20日) 出版流通研究部会報告


「再販・グーグル問題と流対協」

出版流通対策協議会会長  高須次郎 

 出版流通対策協議会は、1978年末、公正取引委員会の橋口委員長が「本の再販制廃止」発言をしたことに対して、反対の意思表示をした出版社80社によって、1979年1月に結成されました。
 それ以来、今日まで一貫して、①出版再販制度の擁護、②差別取引の解消、③言論・出版の自由、という三つの活動方針を掲げ、小規模出版社の活路を求めて、活動を展開してきました。 

(1)再販制問題への取り組み

 再販制問題は、当時の橋口公正取引委員会委員長の「インフレを背景に、出版社が定価の改訂をしやすくするために、本の奥付定価表示を止め、カバーの刷り直しだけで値上げできるようにしているのは消費者の利益に反している」発言に端を発し、業界挙げての反対運動となるのですが、80年3月、公取委と業界側の出版物公正取引協議会との間で、「再販契約書と再販売価格維持励行委員会規約の改訂」ということで合意が成立、10月から新再販制度がスタート。これが現在の再販制度の骨格となっています。時限再販も部分再販も出版社の自由意志でできることになりました。 
 次に、消費税導入による「本の定価表示をめぐる問題」ですが、88年12月24日に消費税法案可決され、89年2月22日、消費税の導入にともなって公取委は「再販価格は税込み価格」を主旨とする「消費税の導入に伴う再販売価格維持制度の運用について」という行政処分を実施。また「消費税導入に伴う価格表示について」を公表して、税額表示を「定価1030円(本体1000円、税30円)」と内税表示することを義務づけ、90年1月1日までに新定価表示に移せということになりました。
 このため出版社はカバーを刷り直したり、定価表紙のシール貼りで膨大な経費と労力を強いられることになり、採算が合わないとして、少部数の専門書を中心に絶版が急増。約1万タイトルが絶版になったといわれています。新価格表示のために百数十億円以上の金がかかったといわれ、一冊平均50円で全出版社の在庫が7億冊、計350億円出費という試算もあります。また将来の税率変更を畏れて、奥付定価表示が事実上なくなってしまいました。
 しかし、流対協は、再販売価格には消費税は含まれていないとし、定価=本体取引、外税表記をしないと税額変更に対応できないという考えから、定価1000円+税の外税表示、外税取引を主張し実行しました。
 97年に消費税が5%に上がり、業界4団体の内税表示、内税取引は破綻し、流対協の主張通りの現行体系になったわけです。
 日米構造協議における米国の再販廃止要求により、94年7月、政府は、「今後における規制緩和の推進等について」を閣議決定、「再販売価格維持制度については、平成9年(97年)度末までにすべての指定品目の取消し及び著作物の範囲の限定・明確化をはかる」ことを決定し、その後、公取は著作物再販制全廃の方向を示唆します。これに驚いて、関係業界の反対運動が活発化するわけです。
 98年3月「一定期間経過後に制度自体の存廃についての結論を得るのが適当である、具体的には3年後に結論する」となり、同時に示されたのが、「6項目の是正措置」で、時限・部分再販等運用の弾力化、割引制度の導入等価格設定の多様化、サービス券の提供等販売促進手段の確保などです。
 ここから、再販制度を守るためという名目で弾力運用運動が始まるのですが、流対協は、これに対しても、原則的に反対し、2001年3月に「文化的・公共面での影響が生じる畏れがある」として、当面存置が決まります。それから10年、昨年9月の流対協と公取の会談で、再販制の見直しは行わないとの発言がでて、最終的に公取委員長が確認の発言を今年になって行います。業界主流は弾力運用を行うばかりで、こうした確認すら行わず、この問題では当事者能力を失っていたのです。 

(2)Googleブック検索和解案問題

 2009年にGoogleによる商業利用を目的とした書籍の全ページ無断スキャニング行為が起こり、世界中を震撼させます。
 Googleが行った行為は、商業利用を目的とした書籍の全ページ無断スキャニング行為であるといえます。著作者への許諾が必要であり、違反行為は、著作権法違反となるのは当然です。
 このGoogle訴訟ではGoogleがフェアユース(公正利用)を主張し、米国の出版社・作家組合側は、訴訟に負けた場合のリスクを考えて和解に応じたといいます。フランスは裁判を続け勝利します。和解案に参加することは、①この犯罪行為を認めることになり、訴えることもできない。②出版者には著作隣接権など出版者の権利がなく、1冊60ドルの「補償金」を受け取る当事者にもなれない——などの観点から流対協は反対しました。
 最終的には、Googleブック検索和解問題は、和解対象が英語圏四カ国に絞られ、日本も対象外になったことで、日本の出版社もほっとし、関心が急速に薄れます。今年になって、和解修正案そのものが、Googleに有利で独占をもたらし、不公正であるとして裁判所によって不承認となりました。

 
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 限られた紙面で30年にわたる流対協の取り組みをご紹介するのは困難である。「本をだすことは 一つのたたかいである」という高須さんの著書『再販・グーグル問題と流対協』(論創社)の帯文が深く印象に残った部会であった。
  出版流通対策協議会(略称・流対協)の会長 高須次郎さんに、「再販・グーグル問題と流対協」というテーマでご報告をお願いしました。参加者29名、内講師・会員11名、一般参加者18名、学生さんの参加者が多い、部会となった(会場:日本大学法学部本館5階151講堂)。

 (文責:出版流通研究部会)