今後の出版流通への展望と課題 松井祐輔 (2017年10月12日開催)

2017年 10月 30日(月曜日) 11:49
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■出版流通研究部会 開催要旨(2017年10月12日開催)


今後の出版流通への展望と課題


松井祐輔 (H.A.Bookstore)


1.背景として――講演者の経歴

 講演者は現在、出版・取次・書店のすべての業務に複数の方法で関わっているが、もともとは出版取次である太洋社に勤務していた。太洋社在籍中から出版をめぐる新しい動きに興味を持ち、本屋B&Bを運営するNUMABOOKSの活動へも2013年から参加している。太洋社退職後は筑摩書房勤務などをへて、NUMABOOKSに所属することとなる。
 2014年には雑誌『HAB』の発行人となり、2000部を売り上げている(一号「新潟」初版1500部、重版500部。二号「本と流通」初版2000部、重版800部)。同年、書店「小屋BOOKS」をオープン。カフェの一部という形での書店開業であったが、2015年に土日のみ開業するH.A.Bookstoreとして台東区蔵前に移動して今日まで営業を続けている。2016年にHABの第2号を発行するとともに、小規模出版物の取次業を開始する。2017年にはH.A.Bとして初の外部著者による書籍『ずこうことばでかんがえる』(きだにやすのり)を発行。さらにNUMABOOKSが2017年7月に開始した出版活動にも関わることとなった。
 現在の活動を一旦整理すると、出版社としてはH.A.BおよびNUMABOOKSで、書店としてはH.A.Bookstore(一部本屋B&Bも)で、流通としてはH.A.Bによる小規模出版取次ということになる。


2.小さな出版・小さな取次・小さな書店の流通

 よく聞かれる質問が2つある。「本ってどうやって仕入れているんですか?」「取次ってどうやってどうなっているんですか?」がそれで、特に後者は取次というプレーヤーの名前くらいは聞いたことがあるが、具体的に想像できないという多くの人の状況を物語っている。


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図1

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図2


 まずは前者について、具体的にH.A.Bookstoreの仕入れに基づいて説明していく(図1・図2)。大きく分けて大手取次経由とそれ以外に分けることができるが、基本的に小規模書店は大手取次と直接遣り取りをするのが難しい。一回の送品量が極めて少ないと、配送にかかる経費が売上による利益を上回ってしまい、取次にとって送品があるごとに赤字となるので当然といえる。H.A.BookstoreはB&Bへの送品に混ぜての配送を受けることで、やや裏技的にこの問題を回避している。
 大手取次以外の仕入れルートは多岐にわたる。リトルプレス系などの出版社とは直接仕入れを行っているし、筑摩書房・河出書房新社・亜紀書房などの一部の出版物については専門卸の子どもの文化普及協会を活用している。またスーパーのスタンドなどに商品を送っている新進など二次卸や、大阪屋栗田が始めた「ホワイエ」を利用することもできる。直取引については出版社ごとに方針は異なっている。近年は『東京わざわざ行きたい街の本屋さん』(和氣正幸・G.B.)のように積極的に直取引の案内を行う出版社も出てきている。


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図3


 小さな出版・小さな取次の流通ルートの説明はさらに複雑になる(図3)。H.A.Bとして出している出版物は、基本的に直取引と取次ルートに分けて流通している。取次ルートに乗せる際は、ツバメ出版流通と鍬谷書店を介した仲間卸をおこない、大手総合取次のルートに乗せることになる。H.A.Bとして取次を請け負った出版社の商品は、八木書店経由の仲間卸で総合取次へ下ろすか、H.A.Bookstoreから直接各書店に送品している。また、NUMABOOKSのスタッフとして関わる出版物は、『まっ直ぐに本を売る』(石橋毅史・苦楽堂)で有名になったトランスビューを介している(一般取次からの仕入れを希望する場合、トランスビューから八木書店を経由する。)。
 出版・取次・書店すべてに関わっていると、小規模な流通では直接取引が利益率・スピードの部分で優位にあるとは思う。ただし、オペレーションやシステム上の問題で取次からの送品でないとならない書店も存在するので、多様なルートでの流通を提供することになっている。


3.H.A.Bの全体像とこれからの展望

 H.A.Bは出版社であり、取次であり、本屋でもある。それぞれに必要な事務所・倉庫・流通・店舗・営業機能を共有することで、固定費を分散させる効果があるものの、効率のみを考えれば実は取次を外したほうが良いかもしれない。売上高を考えると取次が50%以上を占め、ついで本屋、出版という順となる。しかし、利益高で考えると圧倒的に出版が大きく、ついで本屋、そして取次という順で、取次の利益効率が低いことは明確である。
 しかし、H.A.Bを始めた動機からも、これからの展望を考えてもやはり取次業は外せないと考えている。小さな本屋が増えない理由として、前述の大手総合取次とのやり取りの難しさがある。小ロット物流で送れば送るほど赤字となってしまう現状では、総合取次の下す判断は仕方ないものである。この状況の原因の一つが、取次および書店にとって出版物が利益率の低い商品であることだと考えている。
 H.A.Bは今後も商品の利益率を高める方向性、具体的にはキーとなる「利益率の高い本」を確保してピンポイントに儲けを出す方向性を開拓していきたい。これは現在の出版流通業界が目指している大きな方向性と一致しているとも考えているし、そのためには二次卸の一般出版物も小ロットで送れる今のH.A.Bの体制(出版社・取次・本屋)は不可欠である。
 個人的には多様な出版物が世にでるようにしたいし、多様な本屋がたくさんできてほしいと思っている。素晴らしいものを見つけた時に本を作り、世に広げ、対面で売る。それが全て自分の意思でできることは悪くない。そのために今後もH.A.Bはリスクを取ってでも覚悟を持って出版を続けていく人たちとともに進んでいきたいと思う。

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 取次をスタートに書店・出版社の活動に関わり、そして現在進行形ですべての業態を担っている松井氏だからこそ語れる、経験と構想に裏打ちされた講演であった。具体的な動きを追いながら出版多様性の実態を知ることができた一方で、出版流通研究部会を始め出版学会がこれまで小規模なプレーヤには「トピック」的にしか注目してこなかったことへの大きな反省を促す内容でもあったといえる。出版業界の抱える問題点は、リスクを取って行くことで覚悟を持って解決していくしかないという松井氏の指摘は、前回アマゾンの問題を取り上げた研究会で星野会員が指摘したことと相通じるものであった。

日時: 2017年10月12日(木) 午後6時30分~8時30分
会場: 日本大学法学部三崎町キャンパス 10号館9階1091講堂
参加者: 32名(会員15名、一般15名、学生2名)

(文責:鈴木親彦)