第15回 国際出版研究フォーラム 《第3セッション》 出版史・出版教育の視点からみた出版

《第3セッション》 出版史・出版教育の視点からみた出版

大学における出版教育のあり方を考える――大学におけるシラバス調査から
蔡星慧
(学習院女子大学講師)

 本報告では,日本の大学における出版教育のあり方を各大学の「シラバス」を調査し,その現状が報告された。
 現在の日本の大学における出版関係科目を把握するため,68カ所に調査書を送付し,回答を得た26カ所(内,3カ所は該当科目なし)を調査分析の対象とした。

 調査対象者23名のうち,専任教員が10名,非常勤講師が13名であり,20名は出版の現場経験を持っている。現場経験では,出版社・取次・書店・新聞記者など多彩である。
 次に担当科目と授業の内容であるが,担当科目からは「教養科目としての概論(理論)」・「他のメディア関連科目の隣接科目」・「実習制作演習」に大別できる。授業内容では,「出版の基礎知識を含めて編集のプロセスまで」・「出版というメディアの社会的価値影響力について」を教えることが回答者に共通している認識である。これらについては,具体例として,大手前大学と実践女子短期大学の事例が紹介された。
 調査結果の分析により,日本の大学における出版教育の内容が,独立した専門科目ではなく,一般教養科目またはメディア関連科目の隣接科目として位置づけられており,大学におけるカリキュラム上の位置づけも明確ではない。

中国におけるデジタル出版の教育現状の分析
李建偉
(河南大学新聞と伝播学院長・教授)

 本報告では,中国におけるデジタル出版の現状と出版教育の現状が報告された。
 中国におけるデジタル出版産業の市場規模は,2010年は1051.79億元(1元=13円)で,2009年より31.97%増加し,新聞・出版業の10%を占めており,デジタル出版は出版産業の一つの新興業態となってきており,デジタル出版が出版業に占める割合を5年間に25%までにするという目標がある。このようなデジタル出版の活発化を背景に人材育成を考えなくてはならない。
 人材育成では,「デジタル出版の編集創造人材」・「デジタル出版の管理人材」・「デジタル出版の技術人材」の育成が必要であり,そのためには「コミュニケーション学や出版学の基礎理論(基礎知識)」・「文化的教養・実践能力」・「コミュニケーション能力」などが不可欠である。
 これらの人材育成の機関として,汕頭大学長江新聞と伝播学院・北京印刷学院新聞出版学院・上海理工大学出版印刷と芸術設計学院の事例が紹介された。
 現在の中国におけるデジタル出版教育は伝統的出版教育に比して規模は小さいが,デジタル出版専攻を開設する大学では多様な関連科目が開設されている。

転換期メディアとしての出版の空間拡張
――出版社・出版教育の視点からみた出版
南爽純
(韓国出版学会会長,金浦大学校教授)

 本報告では,メディアの変貌に対する出版の根本的な問題についての提言が報告された。
 転換期メディアとしての出版の問題点を「本質的な観点」・「産業的な観点」・「教育的観点」から捉える。「本質的観点」から出版をとらえた場合には,デジタルコンテンツ時代における出版の領域は縮小されるのではなく拡張しており,「産業的観点」から出版をとらえた場合には,韓国においては本の市場は徐々に縮小しており,電子書籍の市場は跳躍の段階に来ており,出版産業が発展するためには「電子書籍の拡張」・「コンテンツの充実」の2つを軸としていかなくてはならない。そして最大の課題はコンテンツの多様さの確保である。「教育的観点」から出版をとらえた場合には,教育は研究の成果により体系化される。
 教育的観点から韓国における出版教育を,大学教育の歴史の流れの中で具体的に紹介された。
 転換期メディアとしての出版は,さらに進化し,広がってゆくと考えられる。

ベストセラーリストの分析
川井良介
(東京経済大学教授)

 本報告では,まず2010年の第14回国際出版研究フォーラム上で発表された「日本のベストセラー(予備的研究)」に基づき,ベストセラーの概念・ベストセラーリスト・ベストセラーの分析(2004-2008年)について触れられた。今回の報告は,前回の報告を踏まえて,対象期間を1946年から2010年の65年間に拡大し,2500点のベストセラーについて,第1期(1946-65年 200点),第2期(1966-80年 150点),第3期(1981-95 450点),第4期(1996-2010年 450点)の4期に分けてそれぞれの期間において,ジャンル・出版社・テレセラー(テレビタレントなどの本やテレビ番組の原作本などがベストセラー本になること)について分析している。ジャンル別では「文学」が929点で42.1%を占めているが,近年減少化傾向にある。出版社では187社が対象になるが,光文社が,第1期(19.0% 38点)・第2期(17.3% 26点)には多くのベストセラーを刊行していたが,第4期においては11点(2.4%)に過ぎない。114点と一番多くベストセラーを刊行している講談社でも10%未満(9.1%)である。第4期では,講談社(8.4% 38点),幻冬舎(8.4% 38点),新潮社(27点 6.0%)の順である。また,テレセラーはテレビの普及等により増加傾向である。

質疑応答
 山田健太会員(専修大学)から「出版教育において実務教育とジャーナリズムの重要性の融合をどうするのか。特にジャーナリズム教育を出版教育の中で,どのように位置づけていくのか」との質問があり,南爽純氏からは,ジャーナリズムはマスコミの役割であり,出版はジャーナリズムと少し領域が違うという距離感があるとの発言と共に,韓国の出版教育の現状が述べられた。
 李建偉氏からは中国の大学の学科構成についての詳細な説明と共に中国での出版教育の現状が述べられた。
 川井良介氏は,出版は最もラディカルなメディアであり,出版の意義は自由な言論活動が出来るものであり,出版はジャーナリズムでは一番期待されるメディアであり,出版こそは厳選メディアであることには賛同できると述べられた。
 蔡星慧氏からは調査過程等から,ジャーナリズムと出版を分けることはあまり考えられいない点があると述べられた。

(文責:古山悟由)