2007年度活動報告(2007年4月~2008年3月まで)

2007年度活動報告(2007年4月~2008年3月まで)

■ 1.概 況

 2007年度における日本出版学会の活動は,それまでの研究や人的交流の蓄積に基づいて着実に進められ,出版研究に対する関心は一層高められた。
 しかしながらその反面,世界の政治・経済情勢はなお不安定要因を継続し,わが国の出版関連業界における業績はなお一歩の成長が困難となっている。
 そのような状況の中において,2007年5月19日に大正大学巣鴨校舎で開催された春季研究発表会においては,114名の参加があり,12名の研究発表,および特別講演会が行われた。
 学会35周年を契機として開始された記念事業は,既に2006年度にその中心的な事業である国際シンポジウムを成功裡に完了し,募金活動は2007年3月31日をもって終了した。学会創立10周年を記念して開始された日本出版学会賞は継続され,残された日本出版学会史の編集作業は,2007年度において刊行委員会に継続され,当初の目的を達成することができた。
 創立35周年記念事業におけるひとつの大きな成果は,国際シンポジウムの開催もさることながら,今後の国際交流を可能とする「出版研究国際交流基金」が設置され,これに基づいて,2008年度において韓国で開催が予定されている第13回国際出版研究フォーラムに対する総勢18名の代表団を派遣する道が開かれたことである。
 1969年3月に設立された日本出版学会は,これまでその設立の理念と志を尊重し,円滑な研究者の交流や情報交換を行い,研究成果の発表のために,学会誌や会報の発行,研究発表会や各種の部会活動,そして,国際出版研究フォーラムへの参加を継続的に行ってきた。これらが可能となったのは,何よりも学会を構成する会員の方々の努力と,経済的な支援をはじめ様々な便宜をはかっていただいている賛助会員の方々のご協力の賜物であり,ここに改めて深甚なる感謝の意を表したい。
 かつては,幾度かの危機に直面した学会財政は,この3年間にほぼ完全に立て直され,繰り返された赤字財政は現状において払底されているということができる。これを実現する過程には,財政委員会による実態の分析と現実的な対応策の策定もさることながら,事務局業務の受託を行った有限会社キープニューの協力があり,それなしに学会財政を立て直すことは不可能なことであった。事務局については,当初の予定では,2008年6月30日までの委託期限であるが,その期限を待たずに,2008年4月1日をもって業務委託契約を更改し,内容をより合理的なものに改めると共に,委託の条件も向上させることとした。
 円滑な学会運営のために我々がめざしたもうひとつの方向は,電子化,ネットワーク化であり,この点についても一部を除き大幅な進展を見ることができた。新規入会者は全員電子メールを使用しており,役員はもとより,全会員が情報と期待を共有することが可能となり,また,その推移や成果についても迅速な把握が可能となった。学術研究の内容とそれを支える支援態勢の両面において,我々は確実に一歩ずつ前進しているということができる。

■ 2.会員数

 正会員       367名
 賛助会員  法人    59社
       個人    5名

■ 3.総 会

 2007年度総会は,2007年5月19日,東京都豊島区の大正大学巣鴨校舎において154名(委任状を含む)の会員が出席,2006年度事業報告,同決算,同学会創立35周年記念事業決算,2007年度事業計画案,同予算案,同学会創立35周年記念事業予算案をそれぞれ審議・可決した。
 なお,第28回日本出版学会賞については,下記のとおりである。
(1)日本出版学会賞・特別賞
 長谷川郁夫『美酒と革嚢 第一書房・長谷川巳之吉』(河出書房新社)
(2)日本出版学会賞・奨励賞
 蔡星慧『出版産業の変遷と書籍出版流通――日本の書籍出版産業の構造的特質』(出版メディアパル)
(3)日本出版学会賞・奨励賞
 馬静『実業之日本社の研究 近代日本雑誌史研究への序章』(平原社)

■ 4.理事会

 2007年度の会務を行うため,2007年度総会から本総会に至るまでの間,理事会を下記のとおり開催した。
  第1回: 2007年 6 月19日
  第2回: 2007年 7 月25日
  第3回: 2007年10月24日
  第4回: 2007年12月14日
  第5回: 2008年 1 月29日
  第6回: 2008年 3 月 4 日
  第7回: 2008年 4 月 8 日
  第8回: 2008年 4 月26日

■ 5.調査研究委員会

 調査研究委員会は,主として各部会間の連絡調整にあたった。各部会の活動状況は次のとおりである。
(1)歴史部会
 2007年9月21日(日本エディタースクール)「近代日本の購書空間における書棚」柴野京子
 2008年3月14日(千代田図書館)「検閲本のゆくえ――千代田図書館蔵『内務省委託本』をめぐって」浅岡邦雄
(2)出版法制研究部会
 2007年10月19日(日本大学法学部)「雑誌人権ボックスの5年間と出版ゾーニング委員会」渡辺桂志
(3)出版流通研究部会
 2007年4月5日(八木書店)「本の街・神保町の再生と書店の役割――21世紀の『ヨキミセサカエル』論」柴田信
 2007年9月27日(八木書店)「シリーズ『出版流通の現状と未来』(1)――21世紀の出版流通を考える」,「委託制と再販制の歴史的変遷と問題点」蔡星慧,「グラフで考える出版産業の現状」下村昭夫
 2007年11月29日(八木書店)「シリーズ『出版流通の現状と未来』(2)――社会の中の出版流通と“公共性”について考える」,「社会の中の出版流通と“公共性”」柴野京子,討論「読者のニーズに応える出版流通とは」柴野京子,清田義昭
(4)出版技術研究部会
 今後の研究課題,部会運営について検討を行った。
(5)雑誌研究部会
 2007年8月3日(日本エディタースクール)「韓国雑誌の歴史と表紙デザイン戦略」,「韓国雑誌出版の歴史的考察」夫吉萬,「韓国雑誌の表紙デザイン研究――月刊『消費者時代』を中心に」琴昌淵
(6)出版教育研究部会
 今後の研究課題,部会運営について検討を行った。
(7)学術出版研究部会
 今後の研究課題,部会運営について検討を行った。
(8)デジタル出版研究部会
 2007年5月22日(東京電機大学)「出版と印刷に注意が必要なWindows Vistaのフォント環境」株式会社モリサワ
 2007年7月11日(DNP五反田ビル)「開発担当者が案内する『秀英体展示室』見学会+『ルーヴル-DNPミュージアムラボ』観覧会――DNP五反田ビルを訪ねる」
 2007年8月28日(日本機械学会)「出版におけるユニバーサルデザイン・フォント」水野昭,鷲巣敏行
 2007年10月18日(東京電機大学)「書物の解体新書――イリアッドはベンヤミンの夢を見るか」小林龍生
 2007年11月13日(東京電機大学)「高精細ディスプレイ用フォントへの取り組み」高橋仁一
(9)出版経営研究部会
 今後の研究課題,部会運営について検討を行った。
(10)出版著作権研究部会
 今後の研究課題,部会運営について検討を行った。
(11)出版編集研究部会
 2007年8月3日(日本エディタースクール)「韓国雑誌の歴史と表紙デザイン戦略」,「韓国雑誌出版の歴史的考察」夫吉萬,「韓国雑誌の表紙デザイン研究――月刊『消費者時代』を中心に」琴昌淵
 2008年2月26日(日本エディタースクール)「『新潮日本語漢字辞典』を編集して」小駒勝美
(12)関西部会
 2007年4月26日(関西学院大学大阪梅田キャンパス)「電子図書館/電子ジャーナル/機関リポジトリ/知識情報基盤――大学図書館におけるデジタル化とネットワーク化の動向」北克一
 2007年6月6日(関西学院大学大阪梅田キャンパス)「ベルリン東洋美術館所蔵『熈代勝覧』が描く江戸の出版文化」松田泰代
 2007年7月24日(関西学院大学大阪梅田キャンパス)「大型書店から見た出版の現在――『希望の書店論』を刊行して」福嶋聡
 2007年9月25日(関西学院大学大阪梅田キャンパス)「大衆文学というジャンルの形成――大佛次郎の初期新聞小説を通して」中村健
 2008年2月22日(関西学院大学大阪梅田キャンパス)「マス・メディアのなかのマンガ――新聞・雑誌にみるカートゥーン」茨木正治

■ 6.プログラム委員会

 総務委員会と調査研究委員会によって構成される合同委員会を開催し,研究発表会の企画・運営に当たった。
(1)春季研究発表会(2007年5月19日,大正大学巣鴨校舎)
〈研究発表 第1分会〉
1.「近世商業出版における蔵版目録のあり方について」松田泰代
2.「三宅米吉と雑誌『文』」竹田進吾
3.「中世大学の学芸教材――アリストテレス書物について」中陣隆夫
4.「北高南低といわれるドイツ出版書籍業におけるヘルダー社の意味」佐藤隆司
5.「占領期における出版団体と出版社――資本・経営・編集についての一考察」吉田則昭
6.「赤本の近代と購書空間の変容――出版流通史再考」柴野京子
〈研究発表 第2分会〉
7.「『新しい歴史教科書』に対する韓国・中国の修正意見の分析」宮崎由幹徳
8.「自費出版書の『公刊度』と公共機関の保存度について――『自費出版文化賞応募書籍目録』を対象とした調査結果の一考察」伊藤良久
9.「朝鮮後期における書籍統制と民衆思想の関係についての一考察――西学及び東学の普及と統制を中心として」尹韓羅
10.「『暮しの手帖』がめざしたもの――花森安治の美学と第1世紀『暮しの手帖』」雪野まり
11.「新刊書店の古書販売の検証と将来展望」星野渉
12.「出版コンテンツの評価基準」遠藤千舟
〈特別講演〉
「武器としての書物 『獄中記』(岩波書店)を刊行して」佐藤優
(2)秋季研究発表会(2007年11月24日,大阪市立大学 文化交流センター)
〈研究発表〉
1.「出版流通合理化と労働運動――1980年代日本図書コード導入事例を中心に」湯浅俊彦
2.「出版文化から見たベルリン東洋美術館所蔵『熈代勝覧』の成立年代に関する一考察」松田泰代
3.「大衆文学の形成――白井喬二・大佛次郎・吉川英治登場の背景とマス・メディア」中村健
4.「明治の小説におけるアメリカ廉価小説の影響」堀啓子
5.「出版倫理の課題――クリフォード・クリスチャンズのメディア倫理学を手掛かりとして」塚本晴二朗
〈特別講演〉
「関西における出版文化の可能性」河内厚郎

■ 7.『出版研究』編集委員会

 『出版研究』編集委員会は,随時会合を開いて,学会誌『出版研究』の企画・編集にあたり,2007年3月20日に第37号(A5版,222頁,1000部,定価2,730円〔本体2,600円+税〕を発行し,合わせて第38号の編集を行った。

■ 8.広報委員会

 広報委員会は,学会活動に関する対外的広報活動を随時行うと共に,学会案内の作成,および『日本出版学会会報』の企画・編集に当たり,次の各号を発行した。
  第120号=40頁,2007年10月20日 (印刷部数700部)

■ 9.関西委員会

 関西委員会は,調査研究委員会と協力して,学会の秋季研究発表会の立案と運営にあたり,日本出版学会秋季研究発表会を開催した。

■ 10.国際交流委員会

 国際交流委員会は,前年度に開催された国際シンポジウムの各種事後処理にあたり,また,2008年度に計画されている第13回国際出版研究フォーラムの発表者,参加者の募集,主催者側である韓国出版学会との連絡・調整にあたった。

■ 11.出版企画委員会

 出版企画委員会は,今年度においては,日本出版学会史刊行委員会に参加し,その編纂と刊行の準備を行った。

■ 12.日本出版学会賞審査委員会

 日本出版学会賞審査委員会は,第28回日本出版学会賞の審査にあたり,検討を行なった。

■ 13.役員(2008年度総会まで)

 会長=植田康夫
 副会長=遠藤千舟
 理事=浅岡邦雄 伊藤洋子 江代修 大和博幸 金山勉 川井良介 木下修
    清田義昭 古山悟由 芝田正夫 志村耕一 下村昭夫 塚本晴二朗 中野潔
    中村幹 長谷川一 樋口清一 星野渉 三浦勲 道吉剛 諸橋泰樹 山田健太
    山本武利 山本俊明 湯浅俊彦 吉川登 吉田則昭
 監事=竹内和芳 田中薫
 事務局長=植村八潮
 名誉会長=清水英夫
 顧問=箕輪成男 吉田公彦 林伸郎

■ 14.常設委員会

(◎=委員長・部会長,○=副部会長)
(1)総務委員会=◎遠藤千舟 植田康夫 植村八潮 川井良介 中村幹 星野渉
(2)調査研究委員会=◎植田康夫 植村八潮 遠藤千舟 川井良介 星野渉
  歴史部会=◎浅岡邦雄
  出版流通研究部会=◎下村昭夫 長谷川一 清田義昭 中町英樹
  出版法制研究部会=◎塚本晴二朗
  出版教育研究部会=◎諸橋泰樹
  出版技術研究部会=◎道吉剛 ○小出鐸男
  雑誌研究部会=◎川井良介 ○吉田則昭
  学術出版研究部会=◎山本俊明 ○長谷川一
  デジタル出版研究部会=◎植村八潮 ○中村幹
  出版経営研究部会=◎木下修 ○永井祥一 ○中村文孝 星野渉
  出版著作権問題研究部会=◎三浦勲 ○樋口清一
  出版編集研究部会=◎植田康夫 ○蔡星慧
  関西部会=◎吉川登 江代修 芝田正夫 中野潔 湯浅俊彦
(3)『出版研究』編集委員会=◎川井良介 石沢岳彦 伊藤洋子 稲田隆 稲田恵美子
    上田宙 大和博幸 掛野剛史 中村幹 道吉剛 吉田則昭
(4)広報委員会=◎星野渉 石沢岳彦 稲田隆 古山悟由 志村耕一 下村昭夫 中野潔 長谷川一
(5)関西委員会=◎芝田正夫 江代修 中野潔 湯浅俊彦 吉川登
(6)国際交流委員会=◎山本俊明 遠藤千舟 竹内和芳 蔡星慧 津田和壽澄 羽生紀子 藤本信彦
    文ヨン珠 吉田公彦 王萍
(7)日本出版学会賞審査委員会=◎植田康夫 植村八潮 芝田正夫 塚本晴二朗 長谷川一 三浦勲
    明星聖子
(8)出版企画委員会=◎星野渉 植田康夫 木下修

■ 15.特別委員会

(1)財政に関する特別委員会=◎中村幹 植田康夫 植村八潮 遠藤千舟 川井良介 星野渉
(2)創立35周年記念事業委員会=◎遠藤千舟 有山輝雄 今井悠紀 植田康夫 植村八潮 川井良介
    清田義昭 小出鐸男 芝田正夫 清水英夫 杉田信夫 高島国男 田辺聡 中村幹 野間佐和子
    林三郎 丸田耕三 三浦勲 箕輪成男 道吉剛 山口昭男 吉田公彦
(3)日本出版学会35年史刊行委員会=◎星野渉 浅岡邦雄 植田康夫 植村八潮 遠藤千舟 川井良介
    川口正 木下修 清田義昭 古山悟由 下村昭夫 竹内和芳 中村幹 丸田耕三 道吉剛
(4)国際シンポジウム(第12回国際出版研究フォーラム)実行委員会=◎遠藤千舟 植田康夫
    植村八潮 金山勉 清田義昭 川井良介 芝田正夫 竹内和芳 蔡星慧 津田和壽澄 中村幹
    羽生紀子 藤本信彦 白源根 星野渉 丸田耕三 道吉剛 文ヨン珠 山本俊明 吉田公彦
    王萍
(5)調査委員会=◎植田康夫 遠藤千舟 植村八潮 川井良介 芝田正夫 竹内和芳 三浦勲 山田健太
(6)選挙管理委員会=◎塚本晴二朗 阿部圭介 岩井義和 岩本謙一 滝川修吾

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