出版物の著作権侵害に対する民事的救済のあり方  宮下義樹 (2011年5月 春季研究発表会)

■出版物の著作権侵害に対する民事的救済のあり方
 (2011年5月 春季研究発表会)

 宮下義樹

概要
 著作権侵害に対する民事的救済方法としては,差止と損害賠償が中心的なものとなっている。しかし,著作権侵害の対象が出版物である場合,侵害者と被侵害者の単純な2者間の問題とはいえなくなる。このことにより発生する問題と課題について検討をする。

1.はじめに
 著作物の流通は創作者が自力のみで行うのではなく,他者の力を借りて行うことが一般的となっている。その場合,著作者と流通に携わる者はそれぞれが別個に権利を持ち,別個に利益を得ることになる。また,逆に,著作権を侵害する者と侵害を広げる者という関係も成り立つ。

2.著作権侵害の成立
 出版者が出版を行う際,出版物の著作者と出版者の著作権処理は何種類か存在する。著作者が出版者に著作権を譲渡する場合,出版権を設定する場合,著作権は著作者が保持したまま,出版者が利用許諾を得る場合である。利用許諾はさらに,他者への許諾を認めない独占的利用許諾とそうではない非独占利用許諾契約に分けることができる。
 それぞれの場合で出版者は著作物の出版を行うことが可能であるが,持つ権利が異なるため,他者が当該著作物を複製,出版等した際に可能となる対処方法は異なる。

3.差止
3-1 差止請求権者
 著作権の侵害に対しては侵害行為の差止請求をすることができる。(著作権法112条)。
 出版物における差止請求の請求権者は,被侵害作品の著作権者が考えられる。この場合,出版者が著作権のうち複製権や公衆送信権の譲渡を受けていれば,多くの侵害状態に対して差止請求できるが,侵害行為に対処できない権利の譲渡であれば,差止請求することはできない。また,出版権の保護対象は「印刷その他の機械的又は化学的方法により文書又は図画として複製する」(80条)ことであるため,オンライン上へのアップロードは侵害とはならず,差止請求はできない。また,利用許諾契約の場合,非独占利用許諾権利は単に利用する権利を得ているだけのため,出版者による差止請求を行うことはできない。独占利用許諾契約の場合には債権者代位権を行使して差止を認める余地はある。

3-2 差止被請求権者
 複製権・翻案権侵害の侵害判定には原作品への依拠が必要である。出版権者が侵害行為に対して関与していない場合,依拠はしておらず差止の対象とならないようにもみえるが,侵害作品の作成段階での依拠があれば足り,逆に,故意・過失要件は必要でないため出版者も差止の被請求権者となる。また,侵害作品という「情を知って」の侵害作品の頒布や,頒布の目的をもった所持等の行為も著作権侵害とみなされ,差止の対象となる(113条1項)。

4.損害賠償
 損害賠償は著作権法に基づくものではなく民法の不法行為(民法709条)が根拠規定であり,行為者の故意・過失を証明することが必要となる。
 原著作物への依拠が認められれば,故意要件も充足されることが一般であり,作成者の故意の立証は容易だといえるが,出版者は依拠をしたということはできず,故意の成立も認めにくい。そのため出版者に対しての損害賠償成立については,過失の有無が問題となることが多い。過失認定では事前調査の有無等を要素とされ,出版者に対して過失が認められやすい傾向であるといえる。

4-1 損害賠償請求者
 差止請求時と同様に著作者,著作権譲受者は損害賠償の主体となりえるが,著作権利用許諾者は損害賠償の主体とはならないと考えられる。

4-2 損害賠償被請求
 侵害作品の著作者と出版者は出版者に過失が認められる場合は侵害作品の創作者との共同不法行為責任を問われることとなる。

5.おわりに
 出版者は著作者ではなく,流通者である。そのため,著作物の救済の主体者という点でみると,著作者に劣る。
 一方,侵害作品の作成という主体的行動を行ったのではない出版者の,侵害作品の流通者という立場における,著作権者側からの救済措置への対応という観点では,侵害作品の作成者とほぼ同等の立場となり,救済の実効性等の問題から出版者も紛争に巻き込まれることが当然となる。
 そのため,著作権は出版者にとって,権利は少量であるがリスクは過大であるという判断も可能である。もっとも,出版者は出版という流通・媒介行為により,出版がない場合と比較の対象とならないほどの侵害行為の拡大化をもたらす可能性もあり,出版者への責任を強く求めるという結果にも一定の合理性は存在する。
 また,出版権の規定は制定当時からほとんど変化しておらず,旧来の印刷物を前提とした制度となっており,電子書籍のような媒体は出版権では対処できていない。
 それらの問題点の解決策の一つとして,出版者にもレコード製作者や放送事業者への著作隣接権のような版面権を与えるという方法もある。
 出版者への保護のあり方を見る上で必要なのが保護の目的である。何のための保護なのか,今後の情報流通で,出版者がどのような役目を果たすべきであるのかを考察する必要がある。