障害者差別解消法と電子出版による読書アクセシビリティの保障 湯浅俊彦 (2014年5月 春季研究発表会)

障害者差別解消法と電子出版による読書アクセシビリティの保障

湯浅俊彦
(立命館大学文学部教授)

 立命館大学図書館では2010年1月の著作権法改正を受けて,視覚障害等を有する学生を対象としたテキストデータ提供を全国の大学図書館に先駆けて開始した。著作権者の許諾なしに大学図書館の所蔵資料をデジタル化し,提供することができるようになったことが直接的な契機である。しかし,全国の大学図書館でこのような所蔵資料のテキストデータ化による読書困難者への提供を行っている例はほとんどない。
 立命館大学図書館の事例では,具体的には2名の専任担当者を配置し,視覚障害等を有する学生が必要とする所蔵資料のテキストデータ化を行っている。図書資料をコピーしてからスキャニングし,OCRソフトにかけ,目視による誤変換修正という校正過程を経て,テキストデータ化するという手順である。
 テキストデータ化された資料はCD-ROMに格納されて利用者に提供される。利用者が返却したCD-ROMはカウンター内に別置され,障害のある学生からリクエストがあれば提供される。利用者が図書館カウンターに申し出れば「テキストデータ化CD-ROM貸出管理票」に図書館スタッフが必要事項を入力し,貸出・返却の管理を行っている。
 2013年6月,「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(通称:障害者差別解消法)が成立し,公布された。これは2006年12月の国際連合総会本会議で採択され,2008年5月に発効している「障害者の権利に関する条約」を批准するために必要な措置であった。障害者差別解消法の公布により,2013年12月,この条約への批准が参議院本会議で承認されている。
 読書アクセシビリティに関連する条文は「行政機関等は,その事務又は事業を行うに当たり,障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において,その実施に伴う負担が過重でないときは,障害者の権利利益を侵害することとならないよう,当該障害者の性別,年齢及び障害の状態に応じて,社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない」とする第7条第2項の規定である。
 つまり,読書アクセシビリティに関して,行政機関等については「合理的配慮」が義務となり,事業者(国,独立行政法人等,地方公共団体及び地方独立行政法人を除く,商業その他の事業を行う者)については努力義務が「障害者差別解消法」が2016年4月に施行されることにより課される。
 国公立大学図書館や公立図書館が,視覚障害者等を有する者から資料リクエストがあり,その音声読み上げ対応を求められた場合,それぞれの図書館は音声読み上げを保障しなければならないだろう。障害者サービスに消極的であった図書館も,「障害者差別解消法」施行以降は合理的配慮を行う義務が生じるのである。
 また事業者は努力義務となっているが,実際にこのような図書館に電子書籍貸出サービスを提供する事業者も,顧客である図書館からその対応が求められることになるだろう。
 以上述べたように,図書資料のテキストデータ化は,読書障害者にとってきわめて重要な意味を持つ。テキストデータであれば,スクリーンリーダーを備えたパソコンによって紙媒体のメディアに記された内容が理解できるからである。
 しかし,紙媒体の書籍や雑誌をイメージスキャナとOCRソフトを用いてテキストデータ化するには時間とコストがかかりすぎる。そもそも今日では紙媒体の書籍や雑誌もその製版データはデジタル化されたものであり,デジタル化された製版データから紙媒体の出版物を制作し,その紙媒体の版面をまたスキャニングしてデジタル化するのは不合理であろう。
 日本の電子書籍市場では,多種多様のデバイスとサービスが混在し,「聴く」ことが出来る電子書籍のタイトル数はそれほど多くはない。アップル社のiPad,iPhone,iPod touchにはVoiceOver機能が搭載されており,またAndroid搭載のスマートフォンやタブレット,さらにAmazon Kindle Storeで購入した電子書籍をiOS用アプリ「Kindle for iPad」によってiPadの日本語音声読み上げ機能を用いて読み上げさせることが可能になっているものの,提供されている電子書籍がまだまだ少ないのが現状である。
 電子出版は視覚障害者だけでなく,発達障害,疾病や怪我による四肢のハンディキャップがある読書障害者,さらには運転中や料理中といった読書ができない環境下にある「読書困難者」に出版コンテンツを伝える画期的なツールとなり得る。そうした市場を想定した電子出版ビジネスも検討されるべきだろう。
 また図書館は電子資料の収集,利用,保存を積極的に行っていくことが重要である。