「学校図書館における電子書籍利用に関する一考察」植村八潮・野口武悟(2017年5月 春季研究発表会)

学校図書館における電子書籍利用に関する一考察
――実証実験を通したアンケート調査から

植村八潮 (専修大学)
野口武悟 (専修大学)

1.研究背景と目的

 大学図書館および公共図書館を中心に電子書籍利用が進展するなか,学校および学校図書館でも電子書籍利用への期待が高まってきている。本研究では,学校図書館で電子書籍を利用できる環境を試験的に構築し,児童生徒や教職員に電子書籍を利用してもらうことで,電子書籍を利活用するためのモデル設計や教職員向け研修プログラムにおける必要項目の抽出を行うこととした。
 今回の発表では,研究結果のうち,電子書籍利用後の児童生徒に行ったアンケートから明らかとなったことを中心に報告した。

2.研究方法

 11校の公立・私立学校(小学校~高等学校)に協力してもらい,公共図書館で既に利用実績のある2つのシステムを流用して,電子書籍を実践的に利用できる環境を協力校の学校図書館に整えた。およそ1,900人の児童生徒と教職員にこれらのシステムを実際に利用してもらい,アンケートを実施した。実証調査期間は,2016年10月~12月である。
 また,電子書籍は,出版社8社の協力を得て,著作権者の許諾と理解のもと,学校図書館のコレクションにふさわしい789点の作品を提供してもらった。実証調査期間中の電子書籍利用は,24時間,マルチアクセス可能とした。

3.研究結果

 児童生徒,教職員の双方ともに,半数以上が好印象を持っており,なかでも児童生徒についてはその傾向が教職員よりも高いことが分かった。また,小学校高学年生が高い評価をしていた。
 児童生徒の電子書籍の利用経験者は,全体を通じて約半数となっており,校種別でも極端な偏りは見られなかった。電子書籍の今後の利用意向は,「ぜひ使いたい」「あれば使いたい」をあわせると7割にのぼった。校種が下がるほど「ぜひ使いたい」「あれば使いたい」と肯定的にとらえる率が高くなり,小学校高学年では,高校生の実に3倍の児童が「ぜひ使いたい」と答えていた。
 高校では,いわゆる不読者とされる月に1冊も本を読まない生徒のうち,電子書籍なら「ぜひ使いたい」と回答した生徒は11%で,「あれば使いたい」を含むと5割を超えていた。
 電子書籍を利用していないと答えた児童生徒が,普段どのような電子書籍サービスを利用しているのかについて,「電子書籍の利用経験」と「電子書籍サービスの利用」をクロス分析した。その結果,「comico」「pixiv」「LINEマンガ」をそれぞれ読む行為を「電子書籍を読む」ととらえていない児童生徒が,およそ3割いることがわかった。「電子書籍の読書」は,単純な質問結果の比率より,もっと普及していると考えられる。
 高校では,小説投稿サイト「小説家になろう」などのネット文芸作品の読者が多いことがわかった。「小説家になろう」の利用者の2割の生徒が月に1冊も紙の本を読んでいないと答えていた。また,電子コミックサイト「comico」「pixiv」「LINEマンガ」のうち,どれかを読んだことがある生徒のうち,4割を越える生徒が,紙のコミックスを読んでいないことがわかった。

4.研究の考察と結論

 従来型の読書調査では,「小説家になろう」などのネット文芸作品(=デジタル小説)を閲覧することを「読書」ととらえてはいない。一方,今まで「本を読まない子」として扱われ,あるいは紙の本を読むように読書指導され,不読者として統計処理されてきた児童生徒の中には,ネット文芸作品を読んでいる児童生徒が少なくないことがわかった。

5.今後の課題

 本研究では,今回発表した内容のほかに,電子書籍を導入するにあたって,学校および学校図書館のネットワーク環境,予算,分掌体制,教職員のスキルなど,解決すべき課題が少なくないことも確認できた。また教職員に対するアンケート調査と,その結果を基にして「学校図書館関係者向け電子書籍利用の研修プログラムの検討」を行った。今後,実際に公開型の研修会を実施して,効果測定を行う予定である。同時に,引き続き,複数の学校に協力してもらい,学校図書館における電子書籍利用(授業活用および個人読書)の可能性を探っていく予定である。
 質疑応答では,研修プログラムについて質問が寄せられた。
 本研究は,公益財団法人図書館振興財団における平成28年度振興助成事業「学校図書館における電子書籍利用モデルの構築」による研究成果の一部である。