修復基礎実習と脱酸処理工場見学 横島文夫 (2016年7月9日)

■出版技術研究部会 研究会要旨(2016年7月9日)

修復基礎実習と脱酸処理工場見学
――プリザベーション・テクノロジーズ・ジャパン見学会

横島文夫
(株式会社プリザベーション・テクノロジーズ・ジャパン専務取締役、博士(美術))

 木材パルプを使用し、硫酸アルミニウムを用いた大量製紙技術は19世紀ヨーロッパにおいて本格化し、安価ながら脆弱な酸性紙が広く普及するようになる。しかし酸性紙は紙に内在する酸の影響を受けて継時的にゆっくりと劣化し、条件によっては粉砕するまでに脆化する。脱酸性化処理技術はそのような酸性紙の「酸性劣化」を抑止するために開発された図書や文書資料のための劣化予防措置である。当社のブックキーパー大量脱酸性化処理技術は1980年代にアメリカにおいて開発され、酸性紙をアルカリ化し、紙の寿命を3~5倍に延命する資料保存技術である。ブックキーパーは1990年代から米国議会図書館をはじめ、世界各地の図書館や文書館が所蔵する酸性紙資料の保存に寄与している。
 当社では図書館、文書館の紙資料を脱酸性化処理する際に、紙資料の簡易補修処置を併せて提供している。同処置では破れた箇所の繕いや腐食したホチキスの除去といった極めて基本的な補修処置を、和紙や正麩糊といった伝統的ながらも可逆性のある材料をもって作業している。また、当社では必要最低限の補修処置を心がけており、当該資料を脱酸性化処理するのに十分なまでに補強することを目的としているため、「修復」ではなく「簡易補修」という表現を用いている。
 今回の補修体験会では褐色化し、脆化した酸性紙の破れを和紙と正麩糊を用いて繕う実習、ならびに簡易製本のホチキスを除去して、麻糸や紙こよりで綴じ直す実習を当社の補修担当者が実演、解説しながら行った。同実習では簡易補修に必要な各種材料、および道具について解説し、電子レンジを用いた正麩糊の調製方法についても併せて紹介した。また、簡易補修に役立つだろう道具一式、および少量の和紙や正麩糊を参加者に対して有償で提供することで、実習後も自力での作業が僅かでも実践できるようなセットを整えた。
 補修体験会の後は酸性紙の歴史、および脱酸性化処理に関する40分程度の概説を行った上で、ブックキーパー大量脱酸性化処理工場での見学会を実施した。同見学会ではブックキーパー脱酸性化処理の実際的な工程や、品質管理の方法を紹介した。また、簡易補修を行っている作業場の紹介を行うとともに、最後の30分程度は資料保存に関する質疑応答を実施し、定刻通りに閉会した。

*参加者26名(会員2名、非会員24名)
 会場は同社工場および近隣会議室(さいたま市内)
(文責:田中 栞)