“ネットファースト”で何が変わった 堀鉄彦 (2016年11月15日)

■出版編集研究部会 開催要旨(2016年11月15日)

“ネットファースト”で何が変わった
──出版ビジネスを取り巻く環境変化についての考察

堀鉄彦
(会員、電子書籍を考える出版社の会フェロー、出版・著作権等管理販売研究会顧問、ホリプランニング代表)

 ネットファースト、デジタルファーストの出版企画が増えている。編集現場へのDTPの導入や、ネット書店のサービスから始まった出版プラットフォームのデジタル化は今、コンテンツの発掘や作家の育成にまでその対象が広がった。
 たとえば小説では、投稿サイト「小説家になろう」発の作品がベストセラーランキング上位に常時入る状況だ。コミックでもcomicoなど無料コミックの投稿サービスが人気で、投稿サイト発のベストセラーやアニメ化作品も多数生まれ始めた。雑誌では出版社によるデジタルメディア開設や紙雑誌のデジタル版への移行の動きが活発化し、デジタルメディア発の雑誌発行という動きも出始めている。
 デジタルファースト出版が広がる直接のきっかけは、スマホの普及だ。スマホはパソコンと違い、常に持ち歩けるデバイス。若年層とのコミュニケーションツールとして普及すると同時に、出版だけでなくテレビ/新聞などあらゆるメディアを包含する形で急成長した。利用者の接触時間でテレビなどを上回るまでになったスマホは今や最強のメディア端末。その普及に合わせて出版のデジタルファースト化の流れも加速された。
 デジタルファースト時代に出版企画はどう変容していくのだろうか。今以上にデータドリブンの企画比率が高まっていくことになるだろう。デジタルファーストの作品や記事は人気が数字で可視化され、ペーパーファーストの企画では手に入らない、売れるか売れないかの判断材料が容易に手に入るからだ。また、コンテンツの一部を切り出してプロモーションに使ったり、テーマ別にパッケージを再構成したりも可能。柔軟なビジネスが展開可能となる。出版パッケージの概念も再構築されるだろう。
 「小説家になろう」での人気が出版企画の重要指標になっているのは一例。出版社ではアルファポリスが投稿プラットフォーム発の出版に徹する形で、低リスクで効率的な出版マーケティングシステムを確立。出版不況下で、年率20%以上の成長を続けた。株式公開にまでこぎつけた。
 その中で重要性を増すのが、コンテンツマネジメントシステム(CMS)との連携だ。米Hearstは、自社開発のCMSを活用して世界のグループ企業が配信する記事素材を共有。記事を評価するためのデータとしてSNSからの流入数、コメントの付き具合いまでチェック。PDCAのサイクルを回しながら運営している。
 ITのプラットフォームをフル活用することで、イベントやEC、コミュニティ運営など、出版以外のマネタイズ機会を“360°”の方向でさぐる出版社も増加。ビジネスモデルへの影響も顕著となっている。

参加者:22名(会員12名、一般10名)
会場:日本大学法学部三崎町キャンパス10号館
(文責;堀鉄彦)