改めて考える取次の機能と現状 鈴木親彦(2016年6月30日)

出版流通研究部会報告(2016年6月30日開催)

2016年、いま出版産業では…

改めて考える取次の機能と現状

=これからの出版流通を考えるために 

鈴木親彦(東京大学大学院・博士課程)

 

1. 二つの時代の取次危機

2015年から取次の経営危機や再編が相次ぎ、出版流通を担うインフラの変化、従来型のプラットフォームの限界を叫ぶ声がさらに強まっている。しかし実は約100年前にも、当時の出版流通を支えていた大手取次が相次いで破綻していた。

 

 明治末から大正初期、近代型の大量物流による出版流通が確立しつつある時代に、日本の出版流通は大取次(後に元取次)という雑誌を主に扱う卸業者が活躍している。そして、これら雑誌取次は出版界全体に強い影響力を持っていた。しかし明治末大正初期にいくつかの取次が経営危機に陥り、関東大震災を一つの原因として大手雑誌取次「至誠堂」が破たんする。商いの大きい雑誌流通の一翼を担っていた同社の破綻は出版業界を大きく動揺させ、業界を挙げての救済と流通再編が行われることになった。この過程で戦前のいわゆる「四大取次」体制が作り上げられていく。

100年前の取次破綻が新たな取次体制を作り出した一方で、現在の取次の経営危機を同じように眺めることはできない。例えば至誠堂には、関東大震災によるダメージと投資の失敗という、本業以外の破綻理由があったのに対し、2015年から2016年の取次破綻は、本業の縮小で体力をじわじわと奪われての結果である。 

2. 取次の機能と変化

前述のように、同じ取次の危機であったとしても、現在の取次が置かれた状況と100年前では大きく異なる。また同様に「取次」の持っている機能も異なっている。そこで現在の取次が持っている機能を一度腑分けして、危機と変化を理解するきっかけをつかみたい。同じ取次の危機であったとしても、現在の取次が置かれた状況と100年前では大きく異なる。同様に取次の持っている機能も異なっている。現在の取次が持っている機能を一度腑分けして、危機と変化を理解するきっかけをつかみたい。つまり物流機能、仕入・配本機能、書店営業機能、金融調整機能、新規開発機能である。

紙面の都合上各機能の詳細は省略するが、取次が行っている取り組みの多くはこれらの機能を強化する、または効率化するためだと位置づけることができる。例えば、物流や在庫管理の効率化、仕入・配本の正確化や高速化、書店での販売促進、メイン商品新開発などである。 

3. 取次成立の前提とAmazon

こうした機能を持つ取次は、当たり前のようだがいくつかの前提に立った業務を行っている。多数の出版社と多数の書店をつなぐ位置にいるということ、言い方をかえれば出版社も書店も複数存在することである。またその二者の間で、大量の商品が取引されているということも必要になる。大量の取引先の間で大量の商品を扱って、そこを様々な面で効率化するからこそ取次が必要となるのである。

このように考えると、やや乱暴な議論ではあるが、Amazon問題の特殊性が浮かび上がってくる。ネット上という領域、特に書籍のネット販売においては非常に大きなシェアを持ち(数字については残念ながら類推せざるを得ないが)、仮想的には無限の売り場を展開できるAmazonは、いうなれば「そもそも取次を必要としない流通圏にいる」のである。といっても、もちろんAmazonを考えずに今日の出版を語ることはできない。 

4. 取次改革と流通改革

さて、今日の取次の状況に話を戻すと、取次は出版流通から出版業界の売上を伸ばす、または販売の効率性を上げるためにアクションを行っている。責任販売や効率販売、帳合切替、書店買収・系列化、トーハン:PI推進プロジェクトをはじめとする出版社支援、新規商品開発は、すでにみた機能を強化しさらに言えば「多数対多数」の状況を担保するためのアクションであるといえる。

大量物流や多数対多数に対応しないアクションは、取次以外のプレーヤーが担って進められている。例えば、バーゲンブックは取次と協力しながら八木書店などが精力的に推進しているし、より小規模な物流を担おうとする「ことりつぎ」や「HAB」の取り組みなどを見ることもできる。

流通改革が語られる場合、多くは前者の大量物流に関する話が中心になってきた。注文制度の問題についても、ジャパンブックセンターに関する議論も、多くは結局取次に改革を求め、取次の話題に終始してきたということができるかもしれない。しかし、実際に取次が持っている資源やスキルの範囲はある意味明確である。多くは先に示した五つの機能の範囲内であり、いうなれば取次改革もその範囲内で行われてきた。大量物流がなくなる、雑誌の流通が限界を迎える、再販制や委託性が変化するといった、現在の構造を乗り越える流通が生まれる際に、取次のみにその責任を問うのは難しいのが現実だといえる。

実際、現在取次として業務を行っている各社のなかで、戦前の雑誌書籍別流通が日配によって再編され、戦後の日配解体による現在の取次成立までを経験してきたのは、大坂屋と一体化した栗田出版販売のみである。もちろん、会社の連続性が記憶の連続性と一致するわけではないが、多くの取次が現在の流通の前提のみしか経験していないのもまた事実であろう。 

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 鈴木会員の報告は、歴史を振り返りながら、現在の取次のあり方を俯瞰するものであった。ディスカッションでは、現在の出版業界がかかわる様々な問題について、出版社や書店、編集や営業といった様々な現場の意見がぶつけられた。「出版社・書店・取次といった垣根を越えて、次世代の在り方について本気で議論し、お互いの利益を巡って本気で喧嘩をする必要がある」という意見も出たように、今以上にざっくばらんな意見交換が求められている。

参加者:27名(会員16名、一般11名。会場;八木書店会議室

(文責:出版流通研究部会)

 

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