「コロナ禍でも立ち止まらないために――学術出版の次を妄想する」江草貞治(2021年6月25日開催)

■ 日本出版学会 学術出版研究部会(一般社団法人大学出版部協会 共催) 開催要旨(2021年6月22日開催)

連続オンライン講演会:「学術出版を語る」1
「コロナ禍でも立ち止まらないために――学術出版の次を妄想する」
江草貞治(有斐閣代表取締役社長)

「はじめに」
学術出版に共通する課題を突破して、報告者(江草)が、自社(有斐閣)が次のステージに進むための考え方を整理した。その考え方の取っかかりとして「プラットフォームビジネス」の視点で自社事業を見直すと、面白い再構成が出来るのではないかというもの。

「有斐閣のビジネスモデル」
創業時の事業は古書の売買をするだけでなく、結果として苦学生の就学支援なども手がけた。学生に本以外の価値を提供していたのではないか。
現代では、①教育者の講義を支える「テキスト」②研究者や実務家への少部数ながらも必要な「専門書」③試験勉強や学びへの関心に応える啓蒙書や学習書、の3本柱となる。それぞれの読者に対して’①学びの裾野を広げ、将来の研究者の層を厚くしていく’②研究の成果を広く伝え時代を超えて伝える’③読者の知的関心や向上心に応えて個人や社会の向上に繋げる、という価値を提供している。

「問題意識」
学術出版における外部環境は、とりわけICTによって様々な本を活用が可能になったことで大きく変化している。2020年はコロナ禍での大学図書館の電子図書館システム導入開始が顕著であった。今後も講義自体が電子資料を活用するスタイルに移行することで、導入が加速する可能性が有る。例えば先行文献を多読し、深く掘り下げていく教育への要望が生まれている。また民事裁判の判決文が全文デジタルデータで公開されることが検討されているが、ビッグデータを使った研究領域が法学でも起こりうる。
実務の世界では、単なる電子書籍閲覧ではなく業務サポートにAIを使った法律文書作成補助や管理、専門書籍や官庁の文書リサーチを効率的に進めるプラットフォームが続々と開発されている。
こうした新しい技術によって実務や研究、教育の変化が加速していることを背景にして、著作権法上の権利を制限する立法が近年続いているように見える。入手困難資料の閲覧、バリアフリーを含む読み方や利用の多様化について出版社側でも意識する必要があるのではないか。著作物が読まれ利用されるという著作物自体の価値の最大化を考え、様々な利用に対するライセンス等も視野入れておかないと、出版社自体が学術情報流通の隘路となりかねない。
FacebookやAmazon等のプラットフォームビジネスが全盛だが、出版社が発想を切り替えるヒントに、その事業モデルを眺めることが有効ではないだろうか。紙の出版産業に加え、関わる全ての関係者に対してより多くの価値を提供することで、多様な対価を得る手段を考えることは出来ないか。

「『学術出版の次』を妄想する」
出版社はそもそも執筆者(研究者)と読者の間に立ったプラットフォーマーだと仮定してみると、多方向に提供できる価値を最大化することを考えて行くことができるだろう。執筆に際しては高度な編集機能や校正を提供する。販売に際しては必要な人に迅速に届け、絶版が無く探しやすい手法などで研究公表のレベルを上げる。読者の好奇心や向学心を加速する買いやすさ読みやすさを追求し、更に出版社の枠を超えて提供することができるのではないか。
(文責:江草貞治)

日時:2021年6月25日(金) 18:00~20:00
場所:zoom
参加者:出版学会会員33名、大学出版部協会会員18名、いずれにも所属しない非会員45名

本部会は、学術出版のキーパーソンたちに展望を語っていただく連続オンライン講演会「学術出版を語る」の第1回として開催された。

主催:日本出版学会学術出版研究部会、一般社団法人大学出版部協会
協賛:法経会、人文会、歴史書懇話会、国語・国文学出版会、出版梓会