日本出版学会 学術出版研究部会・出版デジタル研究部会(共催) 開催報告

《大学における電子教科書を考える その1》
「参考書」のサブスクリプションモデル実証実験から見えてきたもの
 ~ デジタル教材活用制度プロジェクトからの報告 ~

報告
 井関貴博(東京大学大学院情報学環 特任研究員)
 山里敬也(名古屋大学教養教育院 教授)
 上原早苗(名古屋大学大学院人文学研究科 教授)
コメント
 井村寿人(勁草書房 代表取締役社長)

1.はじめに

 学術・専門書など大学の授業向け教科書の市場縮小が止まらない。受講者の教科書購入に関わる経済面逼迫が最大の要因だが、教員としては、教科書以外の良書も授業や受講者独習に利活用を望むのが本音ではないだろうか。シラバス記載の参考書群がそれを物語っているが、指定教科書でさえ前述の状況下、参考書購入を受講者に強いるのは到底不可能であろう。商業出版界とアカデミアは、本来良い意味でのビジネス的互恵関係が維持・発展されるべきと考えるが、残念ながらその構図は崩れ掛かっていると言わざるをえない。
 本報告は、このような状況打開の一助としての可能性を探るべく、教員推奨の参考書(電子版)をサブスクリプション(以下、サブスク)方式で利用を試みた実験授業の概況である。

2.実験授業の概要

 2020年度に名古屋大学の教員4名(4授業)の協力を得て実施した。
 ※電子書籍運用システム:大学生協『VarsityWave eBooks(DECSアプリ)』借用

【サブスクモデルについて】
 一般的なサブスクサービスは、コンテンツ提供事業者がパッケージ化した「レディメイド型」だが、本実験は利用者である教員の希望図書群(電子版)を取り揃えた「カスタムメイド型」とした点がポイントである。受講者は指定教科書(冊子版)購入を基本とし、併せて参考書のサブスク利用料を払うことで開講期間利用可能とした。利用料金は各授業とも受講者一人当たり(税込)550円に設定した。

【実験による検証・確認事項】
 本実験における検証・確認項目は主に以下2点である。
 ① 参考書群(電子版)利活用による教育・学習効果確認(電子書籍利用ログより)
 ② サブスク利用料に関する受講者の費用感調査(アンケート調査より)

3.実験結果

【教育・学習効果】
 当初4授業とも定期試験成績を基に従来授業との比較を予定したが、COVID-19禍で試験が実施できたのが1授業であった。この授業について過去4年間のクラス全体成績を比較すると、実験授業は成績低位層が減り上位層に偏る傾向が鮮明であった。サブスク図書群利用の効果と言えそうだが、担当教員(次項の山里教授)によると、全面遠隔授業による独習時間増加や、出席確認に代えた小テスト等も少なからず影響した模様である。

【協力教員2名[山里敬也教授・上原早苗教授]からの報告】
[山里敬也 教授]
 A/Bテストになぞらえ、同一科目を分担する別クラスとの比較の紹介があった。別クラスも同じ問題の定期試験を行うが授業は従来型(教科書(冊子)+板書・教員語り)であり、どの程度の成績差異が認められたかである。結果、顕著ではないものの山里先生クラスは成績分布が上位に多い傾向が見て取れたようである。
[上原早苗 教授]
 難易度の異なる参考書(電子版)を複数取り揃えられるメリットの紹介があった。指定教科書1冊だけだとその年の受講者レベルにそぐわない場合もある。また、毎年もともと優秀な者とそうでない者の大きな差異が少なからず存在し、各者に相応しいレベルの図書を適宜利活用可能となった効果は非常に大きいとのことである。
[その他4教員全体として]
 授業で課す演習問題の「解答の充実度」、レポート課題の「論考の深さ」や「視点の独自性」など、例年に比して質的に相当高まったことは確かのようである。(⇒結果、4授業中の2授業は2021年度に本番へ移行。本番時サブスク利用料:(税込)990円)

【受講者の費用感等】
・利用料金は、1,000円以下なら適当との回答が全体の約8割を占めた。
・主な要望として、サブスクのため「開講期間しか利用できない」、「自分の所有物にならない」点について、途中で買い取りに変更可など柔軟なサービスメニューが挙げられた。

【協力出版社の見解】
・教科書販売が低迷するなかサブスク形態は総論賛成が多いが、各論となるとビジネスとして成り立つ明確な裏付けや仕組み構築の必要性など、慎重な回答が大半である。
・一つの授業で複数図書(=複数出版社)利用において、出版社別に利用料の適正配分の手法が課題として挙げられた。

4.まとめ

 今回の実験授業は、COVID-19禍の影響で当初計画通りには実施できない状況下で得られた結果であり、また4つの授業だけで断言するのも無理があるが、おおよその効果検証と課題・ニーズの掘り起こしはできたと考える。このようなモデルに対して教員は特に異論はなく、受講者も大方歓迎と受け取れる。商業出版社については、現状商売の柱である教科書販売とのバランスや、サブスクとしてのビジネスモデルをどのように構築するか次第であろう。
 ただし、今回のようなモデルは、大学(教員・受講者)側と商業出版社側の誰もが満足する仕組み構築は難しいと思われ、「両者とも賛同した者だけが利用する仕組み」と考えるのが近道と言えそうである。
(文責:井関貴博)

日 時: 2021年11月29日(月)18:30~20:30
開催方法:オンライン開催(Zoom)
参加者:147名(会員:34名、非会員:109名、登壇者:4名)