「大学生協の電子教科書事業(DECS)からの報告」瀬良兼司・鷲嶺奈緒子(2021年12月20日開催)

■日本出版学会 学術出版研究部会・出版デジタル研究部会(共催)
 開催報告(2021年12月20日)

《大学における電子教科書を考える その2》
 大学生協の電子教科書事業(DECS)からの報告
 ~ 利用者の視点を踏まえて ~

報告:
瀬良兼司(京都橘大学経営学部 講師)
鷲嶺奈緒子
(生活協同組合連合会大学生協事業連合 勉学研究事業部長)
+ゼミの学生3名

 
1.大学生協のDECSについて~イントロダクション

 現在の高等教育では学生に「答えのない問題」に最善解を導くことができる力、すなわち課題探究能力の習得が求められています。大学生協では「教育の質の転換」に電子書籍・電子教材が大きな役割を果たすと考え、大学教育のサポートを目指して「DECS(Digital Education Contents Support)計画」を推進してきました。
 DECS計画では「デジタルを活用してスマートに学修したい」という学生の願いや、「学生によりよく学んでほしい」という教員の願いを実現するため、「学びの総合提案」をキーコンセプトに、電子書籍だけでなくPCなどのデバイスや、デジタルノートテイクなどの学び方講習も含めた提案を行っています。
 DECSを活用した学びでは、電子教科書・辞書に加えて講義で配布される資料等がひとつのシステム内にあるため、資料で分からない部分や単語を教科書・辞書で調べることが簡単にできたり、教員は学生がどの部分で教科書を読んだか、何の単語を検索したかをログを収集して分析することが可能です。
 これまでに電子教科書は、47大学149講義(2021年12月現在)で採用いただいており、文系、理系、医学系問わず様々な学術分野で、また受講生数も10数名~500名超の講義まで活用していただいています。
 とりわけ教員の皆様からの評価が高いのは、「アノテーション共有機能」といって、学生が自分の電子教科書に貼ったふせんやマーカーを、教員や同じクラスの学生どうしが共有して閲覧できる機能です。また、利用ログを収集・取得する機能があり、利用ログをグラフ等で可視化して分析し、授業の改善等に活用いただいています。

2.京都橘大学での授業事例~教員、学生の立場から

 京都橘大学経営学部の瀬良兼司先生の授業では、「マーケティング論Ⅰ」の履修において、予習・授業・復習にこのDECSの機能を活用し、教員と学生とのコミュニケーションを旺盛に行う双方向授業を実践されています。「学生は予習として教科書を読んで質問や関連事項を電子教科書上のふせんに書いて貼る」→「教員は授業中に何名かのふせんを読み上げ、よい事例を紹介したり、質問の多い項目に答える」→「学生は授業後に復習として学んだことをふせんにまとめて電子教科書に貼る」というサイクルで授業を進行した結果、「教科書に目を通して考える習慣」が身に着いたり、「学生どうしの学び合い」が促進され、意欲的に学ぶことができています。
 学生の皆さんからは「電子教科書を使うことで先生の補足や説明などを瞬時に振り返って見ることができたり、重要な企業のサイトなどもすぐに確認することができたので、理解が深まり、とてもいいと感じた。また、電子教科書にすることで教科書の入荷待ちというのがなく、すぐに手に入れることができたのもとてもいい点だと感じた。」等のご意見をいただいています。また、先生からは「教員が事前に用意したストーリーが全てではなく、学生の声を拾いながら展開させることで、当初の想定よりも多様な視点が期待でき、進行において助けられた」との感想をいただきました。

3.大学生協がこれから目指していきたいこと~ビジネスの観点から

 大学生協においても、紙の教科書は右肩下がりの状況が続いています。この間電子教科書を採用いただいた先生からは「教科書中心に授業が進行できるので、別途スライド資料等を作成せずともよくなり、授業準備が楽になった」という声や、「章単位での販売や(期限が切れたら読めなくなる)レンタル販売をしてもらうことで、教科書としての採用がしやすくなった」という声をいただいています。事例でご紹介したインタラクティブな学びを促進することはもちろんですが、電子教科書・電子書籍がもつ可能性の中で、あらためて「教科書採用していただき、教科書利用を伸ばす」ことを実現していきたいと考えています。
 また、これまでは大学生協が独自にアプリケーション(DECSアプリ)を企画・開発してきましたが、2022年秋より本格的に、大日本印刷が開発し、NTTEDXが運用する新しいプラットフォームを大学生協として利用することにしました。「DECSアプリ」で実現していた基本的な機能は、原則として新しいプラットフォームに引き継がれる予定です。これまでに大学生協がとりくみ、見えてきた知見も踏まえて、高等教育機関の「スタンダードなシステム」として、より多くの大学の教育に貢献し、より多くの学生の学びに貢献していきたいと考えています。
 これからも大学生協は、電子ならではの可能性を大学/教員に広め、教科書採用を増やしていきたいと考えます。サブスクリプションやマイクロコンテンツ・コースウエアなど、新たなビジネスモデルも模索していきたいと考えます。ポストコロナの「新しい学びの時代」を、出版社の皆様、大学関係者の皆様とともに切り開くことができるよう、お力添えをぜひよろしくお願いいたします。
(文責:鷲嶺奈緒子)

 大学生協のDECSは大学教科書の電子書籍配信事業としては先駆的な取り組みである。コロナ禍においてますますその重要性が高まった現時点における電子教科書の総括と展望を語っていただいたという意味でも興味深い研究会であった。報告の後、出版社、販売会社などを含む幅広い参加者による活発な討論が行われた。
 
日 時: 2021年12月20日(月) 18:30~20:30
開催方法:オンライン開催(Zoom)
参加者: 110名(会員:37名、非会員:68名、登壇者:5名)