出版翻訳の現在(4)――販売者の視点から 野上由人・梶原治樹 (2020年1月24日開催)

■ 翻訳出版研究部会 開催報告 (2020年1月24日開催)
 出版翻訳の現在(4)――販売者の視点から

 野上由人 (株式会社リブロプラス営業本部長兼商品部長)
 梶原治樹 (株式会社扶桑社販売局販売部長、本学会理事)

 様々な視点から翻訳出版にまつわる課題を考えてきた本部会では、2019年度第4回目の部会として、「販売」というテーマで研究会を開催した。

 まず、扶桑社で書籍、雑誌の販売を統括する梶原治樹氏からは、ベストセラーとなった『チーズはどこへ消えた?』(スペンサー・ジョンソン著、 門田美鈴訳)や1994年にシリーズ創刊した扶桑社海外文庫など、同社の翻訳作品の概況についてご紹介いただいた後、日本の出版界の売り上げがピークを迎えていた1990年代半ばから現在にいたるまでの書籍出版市場における海外翻訳出版物の売上規模の変容について説明があった。出版不況といわれる現在でもとりわけ「外国小説」の規模縮小は深刻であり、その背景には「見計らい」を前提としたかつての配本形態からよりターゲットを絞った「マーケットイン」への移行や、輸送費や資材費の高騰にともなう販売価格の上昇、出版社の在庫圧縮などの要因があることが指摘され、その打開策としてのPR施策の検討や、電子出版やPODの活用などについての提言があった。データと事例に基づいた指摘はきわめて説得的であり、翻訳出版が置かれた厳しい現状を改めて認識させられるとともに、新しい視点での対応の必要性を強く感じさせられた。

 続いて、リブロプラスで新しいスタイルの書籍販売促進などを提案されている野上由人氏からは、同社のベストセラーにおける翻訳書の位置についてご説明いただいた。日本語著者の書籍に比べてどうしても原著者の情報が不足しがちになり、それが販売促進において一歩後手にまわる一因になってしまうこと、同様の理由によって翻訳書には本国での売れ方や読まれ方、つまりそのテクストがもつ先進性や共時性、同時代性などの文脈を共有しづらくしてしまう点などがある一方で、SNSなどを利用してそれらの課題を克服していくことの可能性が説かれた。翻訳書販売が置かれている状況は厳しいが、フェミニズムやジェンダー、セクシュアリティ、ポピュリズムや格差社会、AI、監視社会や気候変動等々、世界共通の関心事というのは顕在化しているはずであり、むしろ今こそ「翻訳書」が読まれる時代ではないかという指摘は、これからの施策を検討する上で、著者、翻訳者、出版社、販売者、そして読者など、翻訳出版に携わる全ての関係者が考えるべきことと思われた。

 お二人からの報告の後は会場の参加者をまじえての議論に移り、翻訳者、出版社勤務者、研究者など様々な立場からの活発な意見交換が行われた。今後も連続的な視点をもって部会を開催することで、問題やそれに対するビジョンを共有する会としていきたいと考える。

日 時: 2020年1月24日(金)午後6時30分~8時30分
会 場: ふれあい貸し会議室 飯田橋No8
参加者: 12名(会員8名、非会員4名(うち学生2名))

(文責:山崎隆広)