ロンドン ジャパンセンター 日系書店のマーケティング感覚とは? 加藤重男 (2017年9月22日開催)

■日本出版学会 出版史研究部会 開催要旨(2017年9月22日開催)

ロンドン ジャパンセンター 日系書店のマーケティング感覚とは?
~1989-91年という時代の場合~

加藤重男
(会員、河出書房新社司書、元ロンドン ジャパンセンター サブマネジャー)

 ジャパンセンターは1976年設立、80年に1号館開店。現在では営業方針を変え、ロンドン中心部に支店を構え成長し続けている。研究会では、報告者が勤務した1989年から91年を背景に、バブル崩壊、天安門事件、ベルリンの壁崩壊、東西冷戦終結、湾岸戦争、そして英国では狂牛病の発生、IRA問題、人頭税導入による暴動、サッチャー政権崩壊で混沌としていた情報グローバリゼーション前夜のロンドンで、ジャパンセンターが行っていたマーケティングについて報告した。
 ジャパンセンターの場合、取次経由による出版物の仕入れは決して好条件とは言えなかったが、一部出版社からの直仕入れや、食品や雑貨などの販売によって利益を得ていた。店舗運営としては、併設するトラベル部門からの情報、来店客への取材、英国で生活する日本人の思考や生活事情、そして店舗を構える場所と客層からカテゴリーを絞り、通常の書店とは異なる選書を築く。また旅行書、語学書、文庫、雑誌を中心とし、稼働率を常に意識した在庫管理を行っていた。「日本語」で書かれた出版物が欲しいという強い需要によって、英検の問題集を扱うなど独自性を積極的に展開。知り得る情報はテレビ、ラジオ、紙媒体、そして口コミというアナログ手段に過ぎないにも関わらず、英国人「オタク族」も日本の出版物を求めて来店していた。
 報告後、参加者より活気のある質疑応答の時間を設けることが出来た。主に書店経営や客層に関する質問が多く見受けられた。参加者は非会員が多かったものの、洋書業界関係者が多数集まり、学会活動についての紹介もできた。当時の独立型日系書店の情報はとても乏しいことから、今後更に取材と調査を行い、本研究を前進するものとしたい。

日時: 2017年9月22日(金) 18:30~20:30
会場: 上智大学文学部7号館4階共用室A
参加者: 18名(会員2名、非会員16名)

(文責:加藤重男)