国際著作権法のグローバル化に於ける戦間期の日本非政府アクターの役割 マイ・ハートマン (2018年12月14日開催)

■ 出版史研究部会 開催要旨 (2018年12月14日開催)

国際著作権法のグローバル化に於ける戦間期の日本非政府アクターの役割

マイ・ハートマン
(ベルギー学術研究財団博士研究員・ルーベン大学、上智大学客員研究員)

 発表者のハートマン氏は、ドイツ・ベルリンの出版社で著作権業務などにかかわり、ルール大学ボーフムを経て、現在ベルギーのカトリック・ルーベン大学に博士論文を提出するべく、日欧での研究を続けている。
 同氏のテーマは国際システムとしての著作権史である。従来の研究においては、国家間の政治的交渉として西欧を中心に描かれてきたが、近年では民間の非政府アクターの重要性が指摘されてきた。しかしながら、トランスナショナル・ヒストリーとしての研究はまだほとんど手が付けられていない。今回の研究会で発表された内容は、ベルン条約の成立までを軸としながら、そこに日本の政治官僚組織、有識者、同業者団体などがどのように関わっていたかを詳らかにしたもので、ハートマン氏が各国の図書館や文書館を調査し掘り起こした、議事録やレターなどの一次資料が基になっている。報告の概要は以下の通りである。
 日本の出版者および知識人は、当初ベルン条約への加盟に強く反対した。条約では翻訳権の保護期間が定められており、海外の著作物の翻訳に多くを負っていた日本の図書出版に大きな影響を及ぼすためである。したがってこれらの非政府アクターは、加盟後も日本特有の事情による翻訳権の特例を認めさせるべく、ロビー活動を行った。
 対応にあたった団体には東京書籍商組合、東京出版協会、日本雑誌協会などがあり、1936年には堀口大学、三木清など著名な翻訳者を加えた翻訳権問題協議会も組織されている。さらにこうした活動の中心人物として東京帝国大学の法律家、山田三良がおり、日本政府はもちろん、欧州での学芸委員会を通して意見書などを提出、日本の翻訳権期間留保についての世論形成を行った。
 発表後は、現代の日本においても、こうした問題において官僚組織が関係団体や有識者を組織することがあり、完全な「民間主導」といえるのかどうか、著作権史の研究動向・動機などについて質問があいつぎ、小規模ながら充実した研究会となった。またとくに、海外のアーカイブから日本の出版史を調査する必要性や、国際的な視野からみた日本の出版業について、多く示唆される内容であった。

参加者: 8名(会員6名、非会員2名)
会場: 上智大学文学部7号館4階共用室D

(文責:柴野京子)