電子書籍の読者特性
秦 洋二 (会員、流通科学大学商学部)
現在日本ではインターネットビジネスの市場拡大が続いており,インターネット小売市場は13兆円を超えている(『2017年電子商取引に関する市場調査』経産省)。出版物は,内容的に同一でありながら、紙媒体(モノ商品)として販売されることもあれば,電子書籍(情報・サービス商品)として販売されることもある。さらに紙媒体の場合,リアル店舗でも,ネット通販でも購入できる。つまり,出版物の購入では,リアル店舗とネット通販という販売チャネルの選択に加えて,モノ(紙媒体)と情報・サービス(電子書籍)という財の性質に関する選択も必要である。本研究の目的は,出版物に関する消費者行動に注目し,消費者のモノ(紙の書籍)とサービス(電子書籍)に関する購買行動と利用状況を分析することである。その際,消費者が出版物の購入や使用においてデジタル・デバイスをどのように使用しているかにも注目した。
関西地方の私立大学学生468名を対象とした予備調査と本調査を行い,本調査においては,出版物をヴィジュアル(絵を見ることである程度ストーリーなど追うことができるもの)とテキスト(いわゆる活字)に分類し,前者を「マンガ・ライトノベル」,後者を「書籍・雑誌」とした。さらにそれぞれを「紙媒体」と「電子媒体」に分けて,消費者にどの媒体を最もよく利用するか尋ねた。その結果から,本調査のサンプルを「紙の書籍・雑誌読者」,「紙のマンガ・ラノベ読者」,「電子書籍・雑誌読者」,「電子マンガ・ラノベ読者」に分類した。それぞれの読者が,次によく利用する書籍の形態について尋ねたところ,紙媒体の読者は紙媒体のマンガ・ラノベをよく読む傾向にあり,逆に電子媒体の読者は電子媒体をより良く読む傾向があることがわかった。リアル書店への来訪頻度は,「電子マンガ・ラノベ読者」が最も少なかった。また,それぞれの読者層が電子書籍を利用する際のデバイスについて尋ねたところ,紙の書籍・雑誌読者と電子書籍・雑誌読者ではタブレットの使用率が相対的に高く,電子マンガ・ラノベ読者ではスマホ利用の割合が他の読者層に比べて高くなっていた。
以上のように,出版物はモノ商品と電子出版という情報・サービスの形態の両方で利用できる点が特徴的であるが,それぞれの読者層で行動に違いがあった。また,出版物を「テキスト」と「ヴィジュアル」に分けて見た場合,「ヴィジュアル」的な出版物は電子出版の利用率が高く,その理由としてスマートフォン利用との親和性が高いことが考えられた。今後は,非読書層に関する分析,紙媒体から電子媒体へと読者が移行するメカニズムの検討,出版コンテンツに関するより詳細な分析,消費者の行動・性質を踏まえた流通業者側からの分析などが必要と考えている。
(文責:秦洋二)
日 時: 2019年7月4日(木) 18時30分~20時30分
会 場: 追手門学院大阪城スクエア
参加者: 10名 (会員4名、非会員6名)