「出版DX基盤『MDAM(エムダム)』開発背景や導入効果について」松下延樹・早坂悟(2022年9月13日開催)

■ 日本出版学会 出版デジタル研究部会(HON.jp共催)開催報告

「出版DX基盤『MDAM(エムダム)』開発背景や導入効果について」

 登壇者:
 松下延樹 氏
 (株式会社集英社 ブランドビジネス部デジタルデザイン室)
 早坂悟 氏
 (大日本印刷株式会社 出版イノベーション事業部事業企画本部事業企画部)

 
開催要旨
 株式会社集英社が中心となって開発された総合誌面制作基盤「MDAM(エムダム)」は、雑誌制作ワークフローの標準化と、コンテンツの二次利用を促進するアセットマネジメント機能を備えたシステムである。小学館、講談社、世界文化社グループ、主婦と生活社、光文社など、複数の出版社が採用するプラットフォームになっている。
 今回の研究部会では、この「MDAM」の企画・開発・運営・導入推進に関わってきた株式会社集英社 ブランドビジネス部デジタルデザイン室の松下延樹氏と、導入支援に関わっている大日本印刷株式会社 出版イノベーション事業部事業企画本部事業企画部の早坂悟氏に、開発背景や導入効果などについて話を伺った。
 
なぜ集英社は「MDAM」を開発したか?

 まず集英社松下氏から「MDAM」開発の背景が説明された。紙の雑誌だけを制作していた時代を経て、現在ではウェブ、アプリ、PDF、SNS、書籍やPODなど、さまざまなメディアへの展開が行われている。すると、印刷用に確定した最終データだけでなく、テキストや写真などの中間データについても、社内外さまざまなプレイヤーが、さまざまなファイル形式を必要とするようになった。
 このデータ資産(アセット)を編集部ごとにバラバラで管理していると、要求されたデータを提供する担当者が部署ごとに必要となり効率が悪い。そこで、台割データに紐付いたアセットを自社で集中管理し、必要な人が必要なときに最新データへアクセスし、必要なデータ形式で出力できるような、デジタル・アセット・マネジメント(DAM)のシステムを用意することにした。


出典:集英社 松下様 スライド資料(PDF)5ページ目

 
 社内で共通システムを利用するため、複数媒体のワークフロー平準化も図れることになった。外部のベンダーでもこういったサービスは提供されているが、細かな機能要望にはなかなか対応してくれない。そのため、自社開発することにした。さらに業界全体を考えると、出版社が使用しているアプリケーションやバージョン・OSなどは各社バラバラなので、印刷製版会社側ではさまざまな環境を維持し続けなければならないという問題があった。
 ビジネス面では、プラットフォーマーが雑誌コンテンツを活用してサービスを提供し、レベニューシェアするような動きがある。ところが出版社には統一されたデータのアセット管理がないので、プラットフォーマーがもっとも統一されたデータベースを持つような状態になる。それは決して悪いことではないが、出版社のコア事業を考えたとき、出版社自体がより主体的に関与できるような仕組みのほうが望ましいであろうと考えた。
 仮にそのプラットフォームがうまくいかずクローズするとなると、出版社になにも残らなくなってしまう。どのような分析が行われ、どのような改善をしたのか、ユーザーの反応はどうだったのか、などの情報も出版社には入ってこない。ある程度、出版社側でアセットを管理してコンテンツを提供し、それに対するフィードバックを受けるような座組みの方が、互いに成長していけるのではないかという思いがあった。
 この「MDAM」は前述のようにすでにさまざまな出版社で採用されているが、松下氏が一社一社案内に行くのは物理的に難しい。また、当然、出版社ごとにスタッフや考え方もさまざまなので、集英社の感覚だけだと難しい。そこで、いままで印刷製版で取引している大日本印刷に「MDAM」の展開を協力してもらうことになった。
 
なぜ大日本印刷は「MDAM」の展開を支援するのか?

 続いて大日本印刷早坂氏から、集英社と協力展開を行うようになった背景と、導入効果について説明があった。大日本印刷では出版領域で、出版流通のDX、教育のDX、コミックのDX、雑誌のDXという4つのテーマを掲げ、出版業界全体の効率化や読者・生活者の体験価値向上を目指している。
 出版流通のDXではトーハンと提携、製造・物流改革、情報流通改革、商流改革、販促改革を行っている。教育のDXではNTT西日本、NTT東日本と新会社「NTT EDX」を設立、電子教科書・教材配信事業、教科書の電子化・流通支援事業などを行っている。コミックのDXでは、海賊版対策と正規版流通支援や、ライトアニメ事業を開始している。そして雑誌のDXが、集英社と提携して推進している「MDAM」だ。
 大日本印刷が「MDAM」を採用したのは、集英社松下氏が先に述べたような思想や熱意に共感したことが一番大きい。背景としては、効率的なデータ活用基盤(コンテンツの多角利用拡大への対応)、雑誌制作の効率化(プリプレス改革)、大日本印刷の持つ強みの活用(雑誌・ウェブ制作でのBPOの強み、プリプレスの強みを多様なコンテンツ表現への対応、グループ会社による読者・生活者へのタッチポイントの活用)がある。
 「MDAM」の導入効果には、まず制作業務の効率化が挙げられる。コロナ禍で急にニーズが拡大したテレワークの実現、印刷会社・製版会社にある物の整理や物流などのコスト削減、編集作業の平準化(統一されたワークフロー)による業務の効率化、大日本印刷製版部門との連携による運用サポートなどだ。
 またデータ活用の利便性向上では、コンテンツデータの一元管理による二次利用の簡便化や効率化、データ提供依頼の減少や手配のための工数削減、確認用PDFの提供などクライアントの要望への即時対応などが挙げられる。印刷製版会社からは、入稿・色校出校、校了入稿→下版、印刷→製本しか見えていなかったのが、「MDAM」ですべての工程が可視化され、さらに利便性が向上されることになる。


出典:大日本印刷 早坂様 スライド資料(PDF)5ページ目

 
 松下氏、早坂氏の発表後、活発な質疑応答がなされた。
 なお、本研究部会の映像はデモンストレーション部分を除き、共催のHON.jp YouTubeチャンネルで公開している。
(文責:鷹野凌)
 
【資料】
集英社 松下様 資料(PDF)
大日本印刷 早坂様 資料(PDF)
 
【開催日時】
2022年9月13日(火)18時30分~20時

【開催地】
オンライン

【参加者】
30名(会員12名、一般18名)

【映像アーカイブ】
https://www.youtube.com/watch?v=Pr9-2Uo_Uvk