「読書バリアフリー法」制定を出版界としてどう生かすか 野口武悟・植村要・江草貞治・中和正彦・植村八潮 (2019年7月30日開催)

■日本出版学会 第6回出版アクセシビリティ研究部会 開催報告 (2019年7月30日開催)

 第6回例会は、「「読書バリアフリー法」制定を出版界としてどう生かすか」のテーマのもと、2019年7月30日(火)の18時半より2部構成で開催された。第1部は、専修大学の野口武悟会員による講演「読書バリアフリー法の制定背景と内容」、第2部は、専修大学の植村八潮会員の司会のもと、図書館総合研究所の植村要会員、有斐閣の江草貞治氏、ライターの中和正彦会員によるパネルディスカッション「出版界として「読書バリアフリー法」をどうとらえ、どう生かすか」であった。以下、概要である。
 
 
【第1部:講演】
読書バリアフリー法の制定背景と内容
野口武悟 (会員、専修大学)

 「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」(読書バリアフリー法)が2019年6月21日に国会で成立し、同月28日に施行された。
 講演では、まず、視覚障害者等の読書環境の現状(「本の飢餓」)や歴史的な展開など、法制定の背景を確認した。
 その上で、制定された法の構成、すなわち、目的(第1条)、基本理念(第3条)、国と地方公共団体の責務(第4条~第6条)、基本計画等の策定(第7条、第8条)、基本的施策(第9条~第17条)、協議の場(第18条)に沿って、内容を概観した。国の基本計画は、来年の3月に策定予定とのことであり、来年度以降、この法に基づく施策が具体的に展開されていくことになる。
 読書バリアフリー法は、出版界に対して何らかの義務づけや強制を伴うような法ではない。しかし、当事者は出版界の動きを注視しており、出版界としてこの法をどうとらえ、どう生かすかが問われている。
 
 
【第2部:パネルディスカッション】
出版界として「読書バリアフリー法」をどうとらえ、どう生かすか

パネリスト:
 植村 要(会員、図書館総合研究所)
 江草貞治(有斐閣)
 中和正彦(会員、ライター)
司会:
 植村八潮(会員、専修大学)

 植村要会員は、視覚障害当事者の立場も踏まえ、法律の施行が障害者にとって「買う自由」と「借りる権利」を確立する礎となるとした。また、LibrariE&TRC-DLがJIS X 8341-3:2016のレベルAAに準拠していることを紹介し、総タイトル数73,000点のうち、出版社により許諾された音声読み上げ可能コンテンツは18,800点に留まっているとした。
 江草貞治氏は、有斐閣として取り組んできた視覚障害者等に対するテキストデータの無償提供について、当該視覚障害学生個人ではなく、その在籍する大学と有斐閣との間で「覚書」締結することや、大学経由でデータの提供を行う形で実施するなど、具体的に事例をまじえて報告した。これは、出版界の中でも先進的な取り組みといえる。この経験を踏まえた上で、同氏は、事業継続のためには経済性の議論が重要であることと行政の責任を指摘した。
 中和正彦会員は、何らかの支援が必要な人が増え続けている一方で、ボランティアによるバリアフリー資料の製作は先細り状態であることを報告した。
 質疑応答では、音声読み上げに関する出版契約の件や欧州の動向、日本の遅れと法体系の違いなどについて情報交換が行われた。最後に出版の自由が絶対的に認められた日本では、読書のアクセシビリティを実現するために、政府の介入なしに出版者の自主的社会的責任が強く求められると司会がまとめた。

参加者:46名(会員18名、一般28名)
会 場:専修大学大学院法学研究科(神田キャンパス7号館)731教室

(文責:野口武悟、植村八潮)