製本業界の現状と展望  齋藤健太 (2010年1月19日)

 ▼出版技術研究部会 (発表要旨 ) 2010年1月19日 

 

  製本業界の現状と展望
齋藤健太

 東京・湊で製本加工を行う齋藤紙工の齋藤健太専務が,製本加工会社の立場から業界の動向のほか,製本様式の特徴と活用法などの技術を解説した。
 業界動向:他産業と同様に機械化,大型化が進む工程もある一方で,手作業が重要な位置を占める割合が多い製本加工工程では,業界内での横のつながりが強く,東京では戦前から分業化が進んでいる。現在は,東京の京橋・湊地区から江東,城南の周辺では商業印刷,神田・神保町から板橋,埼玉方面では書籍,出版印刷に関する加工を得意とする企業が多く,全国の出版系加工の約90%を東京が占める。製本企業の規模は従業員数19人以下が全体の83%,年間売上1億円未満が全体の67%を占める中小企業が多く,後継者不足や長引く出版・印刷不況,顧客となる印刷会社の工程内製化などの影響を受け,廃業する企業が多くなっているとした。
 製本技術:中綴じは,パンフレットや雑誌,カタログなどさまざまな用途に使用され,丁合したページの見開きにしたノドをおもに針金で止めて製本している。針金の先が危険であるという意見から,針金先端を背に向けて出し,表紙でくるむ逆中綴じなどもある。工程が簡素なため,安価であり,本の開きがよく,誌面を大きく使用できる。温湿度に左右されず,古紙リサイクルの工程でも針金と紙の分離が容易なため評価が高い。しかし,高級感を出す加工としては向かず,一定以上のページ数になると針金の強度から綴じることができなくなる欠点もある。
 糊綴じは,水溶性の糊を使用するため,環境負荷が針金の中綴じに劣らず少ない。使用する糊を一部のみ剥離糊にすることで,綴じ込み冊子や地図など取り外して使用感を高める工夫ができる。また,自動丁合い前に折り加工を施すことでページを折り込み,手に取った人に開く動作を促すなど注意を引く工夫を手作業を介さずに取り入れやすいため,安価に自由な設計ができる特長がある。中綴じよりも安価にできる場合もある。
 無線綴じ本と上製本の違いはチリとよばれる表紙と本体のすき間の有無で決まる。現在は上製本であっても下固めに糊を使用することが増えてきている。その要因として,PUR(Poly Urethane Reactive,ウレタン系反応型)糊の技術成長が上げられる。従来使用されてきたEVA(Ethlene Vinyl Acetate copolymer,エチレン酢酸ビニル共重合樹脂)糊は,温度変化により状態が変化するため,接着速度が速く,無溶剤のため,安全無害であるが,高温による背の変形や分解,低温による背割れのほか,古紙との分離が困難なため,リサイクル適性が少ない。一方PUR糊は水分との化学反応による硬化材料のため,耐熱,耐久性に優れ,インキなどの溶剤にも強い。強度があるため薄膜にすることができ,本の開度がEVAに比べ良くなる特長がある。しかし,PUR製本は資機材が高価で背糊を薄く塗布する技術の修得なども難しいため,国内でも常時対応している会社は10数社である。
質疑では,手製本で使用される用語と製本会社で使用される用語の違いやPUR製本の耐久性や費用,欧州と比較した日本の課題などが上げられた。
(文責:武川久野)