■日本出版学会 出版産業研究部会 開催報告
「出版流通を振り返り・未来を議論する
~『出版流通が歩んだ道――近代出版流通誕生150年の軌跡』」
報告者:能勢 仁(ノセ事務所)
出版産業研究部会は、2025年7月25日(金)に、ノセ事務所代表取締役である能勢仁氏を報告者に迎え、研究会「出版流通を振り返り・未来を議論する~『出版流通が歩んだ道――近代出版流通誕生150年の軌跡』」を開催した。当日は、テーマとなった『出版流通が歩んだ道――近代出版流通誕生150年の軌跡』(出版メディアパル、2025年)の共著者である八木壮一氏を含めた22名が、会場である八木書店本社ビル会議室に参集した。
2022年に出版産業研究部会が行った研究会「「出版産業の30年・100年を振り返る~『平成の出版が歩んだ道』」を引き継ぐもので、3年の短い間に大きく変わった出版産業、特に大規模な変化に直面する出版流通について、過去を踏まえて未来を見据えた議論を行う場として設定された。
まず能勢氏は日本の出版流通の置かれた状況を以下の四点から概観し、課題を明確にした。第一は書店の環境についてであり、特に廃業数の増加と売上の問題を中心に整理を行った。
第二は出版社の置かれた状況で、書店数の減少と比較した出版社数の変化の小ささを示したうえで、帝国データバンクでデータが示されている出版社について、規模別に経営状況を整理した。
第三が取次の状況についてである。実質的にトーハンと日販の二社体制にあるなかで、二社の軸とする事業の違いを決算状況から読み解いたうえで、運賃問題の整理を行った。
第四に、新たな業態として注目を集め、ますます数が増加している「個性派」書店について、その可能性と、産業に成長するための課題について述べた。
続いて、諸外国の出版流通状況について、それぞれの社会的・産業的背景を踏まえて整理が行われた。日本でもしばしばモデルとされるドイツの出版流通、「英語圏」という大規模な市場を抱えながらも共通点と相違点を持つアメリカとイギリス、日本と共通点を持つフランスの状況が詳しく紹介された。また、アジア圏については、日本とは異なった体制で出版振興を進める中国と韓国について、国による支援と統制を含めて紹介がなされた。
最後に、「出版業界の生き残り策」として、ブックセラーズ&カンパニーの動向、政府による書店活性化プラン試案、アマゾン対策、書店再編成について提言がなされた。特に、政府によって進められる書店活性化プランについて、課題ごとの担当省庁が違うという問題点、書店と取次の関係の変化とM&Aの促進について、詳しく紹介された。
発表後は、特にアマゾン対策や書籍を購入する読者の購買行動の変化などについて、会場から活発に意見が出され、充実した議論が行われた研究会となった。
文責:鈴木親彦(群馬県立女子大学)
日 時: 2025年7月25日(金) 17:30~19:00
開催方法:リアル開催(八木書店本社会議室)
参加者: 22名(会員:15名、非会員:6名、報告者:1名)