「編集者の編集論を編集すること――『編集の提案』から」宮田文久(2022年4月21日開催)

■ 日本出版学会 出版編集研究部会 開催報告(2022年4月21日開催)

「編集者の編集論を編集すること――『編集の提案』から」
 宮田文久(みやた・ふみひさ) (フリーランス編集者)

 
【開催要旨】
 編集者の編集論は少なくない。例えば文芸・専門書・雑誌やマンガ編集者、そして編集出身の経営者などの回想録やハウツー本にも出現する。もちろん出版の編集論に限らず広い意味での編集の考え方も含まれているが、多くは本人の経験から書かれたものだ。
 この度、津野海太郎氏の過去の編集論を宮田氏の目線で編み直した『編集の提案』(黒鳥社 2022.3)が刊行された。本書は若い世代にも新鮮な編集論として受け止められている。企画意図・経緯を含め、その要点を宮田氏に報告していただいた。
 報告内容は、『編集の提案』って?/企画前夜、編集の思案/勉強の「途中」の本/実用本位の夢、あるいは別の言語の蜃気楼、から成る。特に「編集の思案」として4点提示されたが、その中に「「編集」って、編集者以外に役立つのかどうか問題」といった指摘があった。もちろん「役立つ」と言い切る編集者もいるだろうが、普段は編集者自身も無意識に仕事のなかで発揮している、だからこそ言語化することでもしかしたら社会に敷衍しうるかもしれない、そんな「(明確な有用性の)“手前”の領域があるのでは」という宮田氏の投げかけは重要である。また、「今の若い世代に響くテキスト」として選んだ観点、実作業の経緯報告も参考になった。ここには宮田氏の「編集者以外の人のための編集論」としての意識、津野氏の「実用本位の夢」が通底している。
 これとは別に興味深い観点があった。それは、「今の人には通じない」と宮田氏が判断し最終的に収録を見送らせた数本のテキストである。表現・表記の問題なのか、内容の問題なのか、他の収録テキストとの違いは何なのか。宮田氏自身それを明確に示すことはなく、収録を見送った理由についての議論は残念ながら時間切れとなった。取捨選択の場で判断の揺れを経験することはよくあることだが、必ずしもその理由に自信があるものではない。なお、参加者からの質問があった過去の編集論のどういったところに新しい読者が結び付いたのか、同時代の他の編集者との比較などを考えることは今後の企画にも結び付くだろう。
 「今日的に編み直す」場合の「今日的」とは何なのか、報告者だけではなく編集者全体に関わる課題がここにある。アーカイブとしての編集論が、今日求められる編集論に仕立て直される必要があり、このことが時代が変わっても生き続ける「編集の力」の発見に繋がるであろう。
 宮田氏は津野氏に「目次にもっとうねりが欲しい」と指摘されたそうだ。「うねり」は単に目次の見せ方だけではなく、解釈の多様性を引き出し伸び縮みするバネのような編集論の編集を期待しているように思える。編集者としてあえて一歩引いた感じに見える津野氏との間で漂う空気感は、怖さ半分かと思うが至福の時間でもあっただろう。「「編集」という営みは、時代のなかでどう移り変わり、拡張しているのか」(本書巻末鼎談)をあらためて考えさせられた研究会となった。

日 時: 2022年4月21日(木) 午後6時00分~7時40分
会 場:オンライン開催(Zoom)
参加者:参加登録64名、当日参加者42名(内会員12名)
(文責:飛鳥勝幸)