21世紀を迎えた欧米のブックビジネス 竹内和芳 (2003年3月26日)

出版流通部会   発表要旨 (2003年3月26日)

21世紀を迎えた欧米のブックビジネス

竹内 和芳

 昨年暮に,『欧米のブックビジネス』というタイトルで,小冊子を刊行させていただきました。そこに収録した原稿は,20世紀最後の約5年間,業界紙,誌等に寄稿した原稿をあつめたものです。その中で一番ウェイトをしめるのは1997年3月から2001年3月の4年間,月一回,日本書店商業組合連合会発行の新聞,『全国書店新聞』に「USA書店事情」と題して連載したものです。この連載のタイトルは,書店事情となっておりましたが,意識して,米国の出版業界全体が見えるように,テーマをひろいました。その他の原稿で,EU時代を迎えた欧州の出版界や,海外の再販制度の流れも紹介しました。
 情報源ですが,最近機会は減っているものの,海外にでかけたときは,目についた出版関連の本を買って帰ります。その時はほとんど読まないのですが,何か必要になって開くとき役に立ちます。米国の『パブリッシャーズ・ウイークリー』,イギリスの『ザ・ブックセラー』,フランスの『リーブル・エブド』といった出版業界誌をサブスクリプションで求め,必要に応じてめくります。ドイツには『ブーフ・レポルト』というやはり出版の業界誌があるのですが,ここまでは追っかけてはいません。
 20世紀最後の5年間の,米国,ヨーロッパの書籍出版業界は,同地域の経済の好調と,コンピューターの進化による,デジタル,インターネット関連のインフラ,サービスの飛躍的な発展があいまって,繁栄と,大きな構造的変化を体験しました。大手出版社のほとんどが,巨大なメディアのコングロマリットの傘下に入ったこと。デジタル出版という新しいジャンルの登場。書籍小売分野での,大手チェーン書店の勢力の増大や,インターネット書店の新たな出現。一方で,スモール・パブリッシャーの数は増加し,伝統的な独立系書店の生き残りをかけた,懸命の努力もみられました。
 21世紀に入ったいま,書籍出版周辺の状況はまた変わりつつあります。ネットバブルの崩壊,米国その他地域の経済のスローダウンなどで,殺到したデジタル・ブック分野への投資の熱は冷め,インターネット書店のシェアーは頭打ち,そして,多くの出版社をも傘下におさめ,巨大化を図ったメディアのコングロマリットの相次ぐ躓きがあります。
 そうはいっても,今,欧米の出版界をみる時避けて通れないテーマの一つは,コングロマリットと出版です。米国を例にみても,独ベルテルスマン所有のランダム・ハウス,英ピアソンのペンギン・グループ,豪ニューズ・コーポレーションのハーパーコリンズ,米ヴァイアコムのサイモン&シュスター,そして米AOLタイム・ワーナーのAOLタイム・ワーナー・ブック・グループ。このビッグ・ファイブの一般書売上のシェアーは,2002年の数字でも,45パーセントを占めているのが現状です。合併による出版社の巨大化は,出版にどういう影響を及ぼすのか,追いかけていきたいと思います。
(竹内和芳)