韓国の出版事情 舘野 晢 (2006年5月22日)

■ 出版流通部会   発表要旨 (2006年5月22日)

韓国の出版事情   

 5月22日,2006年度の第1回出版流通研究部会「韓国の出版事情」が八木書店・会議室)で開かれ27名の参加を得た。
 報告者は,先ごろ,韓国の文ヨンジュさんと共同で「韓国の出版事情」を上梓された舘野晢さん(会員)。

「韓国の出版事情」
 舘野 晢

 韓国のことに関心を持つ日本人が増えてきました。ワールドカップの共同開催,「韓流ブーム」などの影響が大きいと思います。それらを通じて韓国の人びとをより身近に感じるようになったからでしょう。韓国と日本とは歴史的・文化的に深いつながりがあり,なにせお隣の国なのですから,関心を持つようになるのは当然のことともいえます。
 最近,日本ではドラマ,映画,ポップス,伝統芸能,スポーツ,それに旅行,食文化と韓国へのこだわりが多様化・細分化してきました。
 出版や書店分野の相互交流も,地味ですが少しずつ進んでいます。出版の世界についてみると,韓国で村上春樹は「ハルキ」,塩野七生は「ナナミ」で通じるほどのビッグネームになっていますし,日本のほうでは「冬のソナタ」「チャングムの誓い」などドラマ関連本がベストセラーになっています。
 そんな状況を迎えているというのに,日本では韓国の出版事情がほとんど知られていません。私は韓国の出版界の方々と20年以上もおつき合いしているので,日本の出版関係者が訪韓されるときなどに,レクチャーを依頼されることがあります。いろいろと韓国出版事情をお話しすると「そうなのか,いままで知らなかったよ!」と感謝されたりします。
 そんなことのあるたびに,「韓国の出版事情を紹介するハンディな本があったらいいのだが」と思ってきました。これまで日本でも新聞などで,韓国で「こんな本が売れています」「人気作家はだれ」とか報道されることはありましたが,韓国の出版文化について本格的に紹介する本は皆無だったからです。したがって本書はその分野について日本では最初のものです。
 本書は,韓国出版学会の文女燕珠(ムン・ヨンジュ)さんと共同で執筆しました。全体の構成は「出版産業」「出版流通」「出版団体」「読書環境」「出版教育」「出版と文化」の6章からなり,最後に「資料編」を収録しました。
 各項目は見開きで完結するように工夫し,読みやすくしてあります。 
 韓国の出版文化は長い歴史があり,いま大きく飛躍しようとしています。「IT大国・韓国」といわれるだけに,日本の出版界よりも先行している部分もあります。「似ているようで,どこかちがう」韓国の,出版現場の息づかいを,本書によって少しでもお伝えすることができたらうれしく思います。

1.韓国の出版産業
 韓国の出版統計としては,大韓出版文化協会が毎年発表しているデータがよく用いられる。毎年の新刊点数,発行部数,平均定価,平均ページ数などであり,漫画を含む13分野別にもデータを発表している。この統計は,新刊点数,発行部数については1968年分から,分野別については1970年からのデータを使用することができる。
 けれども注意すべきことは,この統計数値は大韓出版文化協会が国立中央図書館への納本業務を代行している関係で,その業務を通じて得たデータを基準に作成されている点である。
 毎年,膨大な書籍が発売されるが,そこで納本率が一定であるということは考えられない。だから年度別比較をする際には注意を要する。
 2005年の新刊書刊行点数(「漫画・コミックス」を含む)は4万3585点で,2004年の3万5391点に比べると8194点増,前年比23.1%と大幅に増加した。刊行点数はこの数年来わずかながら増減をくり返していたが,2005年は久しぶりに大きく増えた。「漫画・コミックス」 を除く刊行点数は3万5992点で,前年比30.8%増と大きな伸びを示した。2005年はこれまで点数増を支えてきた「漫画・コミックス」が前年比減に転じ,「漫画・コミックス」外の分野での刊行点数が増えている。
 韓国の出版市場規模について,大韓出版文化協会は次の方式で推定値を発表している。
 納本新刊総発行部数×平均定価×2(重刷を想定)
 但し,ここに漫画は含まれるが,雑誌,定期刊行物,家庭用学習誌などは除外されている。
 この推定方式を用いると,2005年の市場規模は,「総発行部数1億1965 万6681部×平均定価1万1257ウォン×2」の計算によって,2兆6939億 5051万6034ウォンとなる。
 そしてこの推計結果によると,2005年の市場規模は2003年の前年比12.9%減,2004年の前年比4.0%減と2年続いた前年比マイナスから見事に立ち直ったことになる。
 市場規模は1995年の2兆9955億ウォンから始まり,4兆ウォンを超える異常値(1997年)を記録したこともあったが,近年はおおむね「2兆3000~8000億ウォン」の範囲に収まっている。2004年をみると,2兆3484億ウォン(154.7%増)を記録していた。

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 舘野さんと文さんのお二人の努力によって,韓国出版界の全体像が見えてきた。この本が,日韓相互の出版人の交流の架け橋になるとこと願って,舘野さんのリポートを拝聴した。
(文責:出版流通研究部会 下村昭夫)