「今、出版社の経営はどうなっているのか」   柴崎 和博 (2010年4月26日)

出版流通研究部会 発表要旨 (2010年4月26日)

 「今、出版社の経営はどうなっているのか」

 出版流通研究部会は4月26日、東京・千代田区の八木書店6階で今期の第1回研究部会を開催した。
 光和コンピューター・柴崎和博社長(法人会員社)が「今、出版社の経営はどうなっているのか」をテーマに“データで見る出版社の経営状況”の実態報告を行った。

 同社は、経営管理の出版社システムや書店システムを提供する会社、立場上、出版産業の経営実態を把握する必要性を感じ、毎年「売上高が2億円以占の約1000社の出版社データを帝国データバンクから購入し、2004年~09年分のデータを分析し、独自に出版産業の実態について報告した。
 参加者38名(内会員25名+一般13名)で、熱心な質問が相次ぎ、有意義な出版流通研究部会となった。
柴崎社長の講演要旨は次のとおり。

過去6年で赤字が増加「出版社1000社」を分析 

柴崎 和博

 
● 出版社の黒字・赤字企業数の割合
 過去6年間の赤字出版社と黒字出版社を棒グラフで表示。04年の対象出版社数は530社。9割強が黒字、赤字は1割未満となっている。
 以降、対象出版社の推移は05年が518社、06年が496社、07年が464社、08年が465社、09年が437社。09年には黒字が8割弱、赤字が2割強となった。
 対象出版社数が年々減少しているが、これは2億円以上の出版社が減少しているのではないか。年を追うごとに赤字出版社が増えている傾向も顕著である。 

●  売上規模別黒字・赤字企業の割合
 規模別に黒字・赤字出版社を4つの棒グラフで表示した。規模別は“100億円以上”“50億円以上~100億円未満”“10億円以上~50億円未満”“5億円以上~10億円未満”となる。
 売上高が“100億円以上”の出版社の場合、分母に変化はみられないが、とくに08年、09年と赤字が増加している。これは講談社と小学館の赤字の影響が大きいと推察される。両社は黒字でも赤字でも統計的なインパクトを与える。また、このクラスは常に売上高100億円以上を維持しているといえる。
 “50億円以上~100億円未満”の出版社も分母は減っていない。
 同社が取引があるこのクラスの出版社も含めて感じることは、中堅では専門出版社の比率が高まることである。専門分野で基盤を固め、堅実な経営で安定的に数字を残している。そうした出版社が多いと推測できる。
 “10億円以上~50億円未満”の出版社の場合、09年に赤字が急増している。 対象となる出版社は、04年の232社に対し、09年は195社になった。
 “5億円以上~10億円未満”の出版社は、04年の219社に対し、09年が159社と分母が徐々に減少。5億円割れの出版社が増えてきているのが、その要因ではないか。 

● 売上規模別売上高税引き後利益率の推移(三期分)
 “5億円以上~10億円未満”と“100億円以上”の出版社の落ち込み幅が大きく、利益面はマイナス成長になった。講談社と小学館の影響が大きく、ここ3年間で急降下した。
 一方、“50億円以上~100億円未満”の出版社は2%台の利益率を確保し、健闘している。経常利益率ベースでは4~4.5%に相当。『日経新聞』に掲載される上場企業の3月期決算でも経常利益は5%ぐらい。4~4.5%を計上していれば、一般的には優良企業といえる。 

● 出版社の売上高税引き後利益率
 とくにここ3年は利益率が2.5~0.5%に急落。講談社、小学館の経営数値が業界にインパクトを与えている。それを除くと、1.3%程度で下げカーブは少しなだらかになる。 

● 二期連続増益企業(09年度の黒字企業)
 赤字出版社が増加するなか、伸びている出版社があることも確か。2期連続で黒字を計上した出版社は合計54社。内訳は、“100億円以上”が3社(増収増益=1社)
 “50億円以上~100億円未満”が5社(増収増益=2社)、“10億円以上~50億円未満”が26社(増収増益=13社)、“5億円以上~30億円未満”が20社(増収増益=6社)となっている。 

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 東京堂書店出身の柴崎社長。各社にシステムを提供している立場上、ある意味では、「クライアントの財布の中身まで見えてくるという。 在庫管理、マーケティング、原価管理、財務管理と日夜“出版社や書店”の抱える問題に取り込んでいる。
 経営者は“経営判断の情報”をそしてマネージャー(幹部)は、日常の業務判断情報を的確に掴むこと、その対話に中から、“的確な意思決定”が生まれるのだという。
 出版社の本当の“経営力”が問われる時代が今来ていると最後に強調された。  (文責:出版流通研究部会)