第46回 日本出版学会賞審査報告
第46回日本出版学会賞の審査は、「出版の学術調査・研究の領域」における著書を対象に、「日本出版学会賞要綱」および「日本出版学会賞審査細則」に基づいて行われた。今回は2024年1月1日から同年12月31日までに刊行・発表された著作を対象に審査を行い、審査委員会は2024年2月23日、3月23日の2回開催された。審査は、出版学会会員からの自薦他薦の候補作と伊藤民雄会員が作成した出版関係の著作リストに基づいて行われ、その結果、日本出版学会賞1点、日本出版学会賞奨励賞1点を決定した。また、第5回清水英夫賞(日本出版学会優秀論文賞)の審査を行い、委員会で検討した結果、今年度は該当作なしと決定した。
【日本出版学会賞】
山崎隆広 著
『音楽雑誌と政治の季節
――戦後日本の言論とサブカルチャーの形成過程』
(青弓社)
[審査報告]
『ニューミュージック・マガジン』が『ミュージック・マガジン』になる1980年までのおよそ10年間を追い、戦後思想が問題にした「他者」としてのアメリカを重要なキーワードの一つとしながら、オルタナティブな音楽雜誌で展開された議論や論争を丹念に読み込み、文化と政治がクロスオーバーする稀な時代状況下での、ポピュラー音楽と出版と社会状況との関係を明らかにしている。
音楽はマンガやアニメと並び現代社会においてグローバルな展開をしている文化領域である。しかし、マンガやアニメについての研究や、またメジャーな雜誌を対象とした優れたモノグラフは列挙できるが、音楽雑誌の知見は稀であったといえよう。この領域で従来の出版学の手法だけでなく、ブルデューの「場」の概念を援用して、当時の雑誌メディア情況の生成と構造の変容を整理し概念化を試みるなど、出版学に新たな展開を見せた野心的な著作であり、日本出版学会賞に値すると判断した。
【奨励賞】
新藤雄介 著
『読書装置と知のメディア史――近代の書物をめぐる実践』
(人文書院)
[審査報告]
本書は、明治から昭和戦前期の日常における書物と人々との関係について、読書装置と書物をめぐる行為を対象としたものであり、各時期の読書装置と読書実践の実態と、それらをめぐる地域社会と地域組織の関わりといった、独自の研究視角から分析を行ったものである。
出版学の研究領域の中でも特に図書館史と読書史(読書行為論)の分野において新生面を拓いており、とりわけ従来の図書館史では閑却されてきた巡回文庫や簡易図書館について「読書装置」という概念を用いて積極的に取り上げ、それらを多様な史料によって明らかにした点は独自性の高い成果といえる。これまで自明視されてきた図書館という存在や読書という行為を、読書装置や読書実践というメディア史の視座から捉え直し、再構築した本書の知見は、出版学とその周辺領域の学問的発展に資するものであり、日本出版学会賞奨励賞に値すると判断した。
【清水英夫賞(日本出版学会優秀論文賞)】
委員会で検討した結果、今年度は該当作なしと決定した。