第15回 国際出版研究フォーラム 《第1セッション》 産業・流通の視点からみた出版

《第1セッション》 産業・流通の視点からみた出版

中国における電子書籍産業の現状分析
張志強,李鏡鏡
(南京大学情報管理学院出版科学学科教授/南京大学出版科学研究所)

 現状では電子書籍市場に関する統計が2種存在している。これは規格が一致していないためであるが,双方とも2010年度を基準にすると,倍あるいは倍以上の増加を記録している。2010年よりモバイル端末の普及とともに爆発的に発展し,その傾向は5種類に分類される。

【(1)コンテンツプロバイダー主導型,(2)プラットフォームサービスプロバイダー主導型,(3)Webサイト運営主導型,(4)端末メーカー主導型,(5)ネット販売代理店主導型】 またその発展とともに著作権を保護する動きも急激に増えている。まだ専門的な立法がなされていない状況で,条例等の規制で対応しているが,公衆全体の意識レベルが強くないため,海賊版は依然として多い。また行政側の戦略的政策も推進され,税制や人材確保の面で優遇される地域エリアが創設されている。しかしながら,市場規模がやや小さい,著作権とその保護システムが未整備,等の問題が存在している。今後はこれらの問題が次第に解決され,それによって電子書籍が推進されることが望まれる。

メディアとしての出版産業の変化と未来
韓珠利
(ソイル大学メディア出版科教授)

 出版産業は多様なメディアの開発によって変化に直面している。本研究では産業的な側面から出版産業の変化を考察し,韓国出版産業が対応すべき未来の把握を試みる。メディアとしての出版産業は伝統的な出版社だけでなく,Webプラットフォームを中心に著者と読者を直接つなげる等の変化が表れている。まず著者の概念に変化があり,過去著者のみに限られていたメッセージの生産が,多様な人が著者として登場する環境が整えられた。また,従来出版社が行っていたメッセージの質に対する判断も読者に任せるといった,グーテンベルクの印刷革命時にもあった,内容レベルの議論がそのまま再現して来ている。したがって紙の本,電子書籍のように二分法的に出版の概念を見るだけでなく,媒体が持つ物性に最も適切な形態の出版物が何かを認知し,作り出すための努力が必要な時代である。消費者は伝統的なメディアを通じてより,SNS等を通じて友人や知人から情報を得る比重を高めている。
 2011年韓国人の図書購入費が最低を記録したが,同時に小売書店も減少している。読者が本を見る機会が消えるということは紙の本だけでなく,電子書籍にも否定的な影響を与える。何故なら,現在まで紙の本を読む読者が電子書籍も買う比重が高いという現象が現れているからである。新たな媒体にふさわしい内容を構成するためには,媒体の多様な側面を理解しなければならないため,相当な業務量が求められる。緻密に対応する出版社だけがデジタル時代の出版コンテンツを創意的かつ多様に作る出すことができよう。

東日本大震災と出版業界――未曾有の事態にどう対応したか
菊池明郎
(筑摩書房会長)

 2011年3月11日午後2時46分,東北地方を中心とする東日本各地は,我が国観測史上最大のマグニチュード9.0という巨大地震に襲われ,そしてその後場所によって時間差はありながらも想定を遥かに上回る大津波が来襲し沿岸部は壊滅的な被害を受けた。被災書店は1都1道14県におよび,損害額は商品だけで18億2900万円(正味金額)となった。
 こうした被災商品については,出版社はそれぞれ自主的判断に基づいて返品入帳処理を実施した。また新学期直前の時期でもあり供給前の教科書に大きな被害が出たが,4月中旬までにはある程度供給されることとなった。交通機関にも大きな被害があり全国のトラック物流が滞ることとなったが,「隔日配送」や被災地への配送中止などの非常対応を実施し何とか厳しい状況を克服することができた。出版用塗工紙の生産拠点にも大きな被害があり操業を停止した。大手出版社の雑誌などで,用紙の手配がつかないなどの理由から休刊・発売日変更が相次ぎ,発売日延期が360誌,発売中止が30誌という影響があった。また印刷用インキについても製造工場が被災し,原料の輸入等でインキが枯渇する事態は避けられたが,使用制限が求められた。主要出版団体は震災後直ちに対策を検討するため,相次ぎ「対策本部」を立ち上げ,義捐金の拠出・図書の寄贈等の支援が行われた。

(文責:稲田隆)