電子出版時代における知的財産権の制度設計および紛争解決の研究
――ユーザーの利便性向上の視点から
田北康成
(立教大学社会学部)
1.はじめに
知的財産権は「国家」が制度化し,保障してきた。そしてその価値は,利用者の存在と利用行為によって高められるが,制度の設計・運用および紛争処理の実際は権利者等の保護を主眼としていることが多い。そのため,本報告は,ユーザーの利便性向上(ユーザビリティー)の一視野を導き出すことを目的とした。
2.本報告の射程と研究方法
2014年4月現在,日本国内でサービスを享受しうる,電子書籍主要19サービスについて,ユーザビリティの観点から事業者の利用規約,販売方針,異議申立および紛争解決方法等を分析した。
3.分析結果から得られた知見
今回の分析対象中,情報およびサービス利用に関して,主に以下のケースで事業者とユーザーの非対称的な関係がみられた。
①倒産および事業変更,譲渡等,事業者側の都合によるもの,②第三者の権利侵害の被害拡大を防止する場合,③サービス内容の提供者,知的財産権の権利者側の提供行為に問題がある場合,④事業者の過失等により,顧客およびデータ管理が消失した場合,⑤利用停止・退会,登録抹消が事業者側の一義的判断でなされている,ことなどである。
これに対し,ユーザーは異議申立が可能であっても,その解決方法に困難さを抱えており,事業者のグローバル化,利用の国際化もあいまって,これまでの「属地」主義では解決できないことが想定された。このほか,制度上認められてきた自由利用を一切排除,もしくは,大幅に制限する規定等が定められており,権利者等とユーザーの非対称性の拡大をみることができる。インターネット,電子書籍は,技術・思想上,「国家」および「属地性」から解放するはずであったが,ユーザー(消費者)保護・保障者としての立場から,改めて統治機関が必要になるという逆説的現象が生じている。
4.結論
本研究の結果,電子書籍では事業者側の保護が強く,ユーザビリティの利便性の欠如が大きいことが判明した。デジタル化を見越した保護規定が設定されることは必然と言えるが,権利者と利用者を仲立ちする事業者の事前回避,自己防衛的で,ユーザーの利用行為に強く責任を負わせる規定作りになっている。そのため,財産権の保障主体から,消費者保護のために,エリア・エージェントとしての「国家」の存在の転換が予見された。