《日本出版学会創立50周年記念シンポジウム》 「日本出版学会のこれから――何をどうする学会であるべきか」 (2019年5月11日開催)

《日本出版学会創立50周年記念シンポジウム》

日本出版学会のこれから――何をどうする学会であるべきか

司会者:塚本晴二朗
登壇者:石川徳幸・植村八潮・梶原治樹・富川淳子・中川裕美

 学会の創設50周年を記念して,本学会のあり方について徹底的に議論しよう,という趣旨でのシンポジウムであった。
 そこでまず,植村八潮会長に参加者と歴史を振り返るため,学会設立当時の経緯を中心に以下のようなご発言を頂いた。
 「学会創設50周年を機に『出版研究』編集委員会の求めに応じて,「出版(学)のこの50年――現在・過去・未来」と題した座談会に参加した。参加者は,川井良介元会長,芝田正夫前会長,菊池明郎会員,そして本日基調講演をした清田義昭会員である。司会を務めた山田健太会員は,座談会の中で,学会創設期を「学」を目指した出版学の「構築期」とし,10周年を記念した出版学会賞の設立や,国際出版研究フォーラムを始めた時期を「発展期」,そして植田・川井・芝田会長時代の「成熟期」と区分けした」。
 続いて中川裕美会員に,当日に開催されたワークショップ「デジタル時代にどう向き合うか?」を受け,デジタル化が進む出版状況において,出版研究者および日本出版学会として,今後どのような取り組みをしていくべきかについての提言を頂いた。
 この後,学会は教員の集合体であるという視点から,石川徳幸会員より「日本出版学会には多くの研究部会があり,出版業に携わる現場の方と研究者とが活発に交流している。こうした最先端の知識の場に,出版社を志す学生や出版研究を志す学生を参加させるワークショップのような取り組みがあっても面白いのではないか。学会の活動を通じて,将来の出版業界・出版研究を担う人材を育てるといった視座があってよいと思う」とのご意見を頂いた。
 また,日本出版学会の一番のセールスポイントでもある,研究者と業界人とのつながりにつて,梶原治樹会員の考えを伺った。それは,「日本出版学会は研究者と実務者がバランス良く入り混じっているのが特色であり,それを生かすべきである。私自身も両者を連携・橋渡しする役割を果たしていきたいと思う。また,出版産業自体が「紙の出版物」のみで事業展開を行わなくなっている現代において,当学会が紙の本のみを領域とする意味はない」とのことであった。
 最後に研究者と業界人の両方の立場を知る富川淳子会員より「実務家と研究者が組む産学連携が実現しやすい学会である。ただ,残念なことにこれまで雑誌編集者がコンテンツ研究にあまり興味を示してこなかった。出版物の売り上げのカギもデジタルメディアに対抗する力もコンテンツが握っていることを重視し,今後は産学連携の分野を雑誌コンテンツ研究まで広げていきたいと思う」とのご発言があった。
 その後フロアと一体になっての,フリー・ディスカッションとなった。一つにまとめるような類いの議論ではないが,産学が非常にバランス良く関係し合っているという,社会科学系の学会では,希有な学会という特性を生かすべきである,という方向で議論は進んだ。今後の学会の方向性を考える上で,非常に示唆に富むシンポジウムであったと思う。