《ワークショップ》出版創業・独立史データベース(仮)の共同製作に向けて (2017年5月 春季研究発表会)

《ワークショップ》出版創業・独立史データベース(仮)の共同製作に向けて

 司会:柴野京子(上智大学)
 問題提起者:飛鳥勝幸(三省堂出版局)
 討論者:磯部敦(奈良女子大学)、中村健(大阪市立大学学術情報総合センター)

 近年、本学会では出版史をテーマとした研究会・ワークショップ等が連続して開催され、史資料の発掘・共有・利活用とデジタル化に対応したプラットフォーム開発の必要性が討議されてきた。今回のワークショップでは、この一連の流れを受けて、データベースの共同製作という具体的なプロジェクトに向けた提案を行った。
 最初に問題提起者の飛鳥勝幸氏から、同氏が永年にわたって独自に収集してきた出版者の創業・独立に関するデータベースの説明が行われた。このデータは、社史・回想録などをもとに、出版者の異動・枝分かれの系譜をエクセル上に可視化したもので、文学系を中心に約1600社が収録されている。データ内容は、出版社名、創業者名(出身大学)、設立年月日、前職の経歴、独立の経緯、社名の由来、刊行物、その他企業情報などで、逆引き・社名のみの簡略版も作成している。収集の目的は、出版社創業者の表現者としての軌跡と歴史を残すことであり、出自・源流から縦軸の視点として、出版技術と精神――企画、編集方針、ジャンル、販売方法などに継承される特徴を見出すことが可能である。
 続いて討論者の磯部敦・中村健両氏から、関連する話題提供があった。磯部氏は、自身が研究対象としてきた東京稗史出版社関連情報の調査、「東京出版業者名寄せ」(磯部編『明治前期の本屋覚書き』金沢文圃閣)編纂などから具体的事例をあげて、近代の出版業のデータ収集の方法、留意点のレビューが提示された。また中村会員は、図書館における目録運用の視点から、転居ファイル・レコードのスタイルなどについて指摘があった。後半のディスカッションは中野綾子会員の協力により、意見を随時スクリーンに投影しながら進められた。出された主な意見は次のとおりである。

・対象時期・データ内容
 ・近現代を区切る必要性はない
 ・典拠の記載(真偽は別として)は不可欠
 ・地理データ(住所・出身地)、資本関係がほしい
 ・ 創業後の親会社の変遷(どのようにデータ化していくのか)
 ・理系・実用書系を増やしていくこと

・データベースの構造について
 ・外部とつながる識別子が必要ではないか。
 ・他分野でいかにデータベースを使用するか

・作業のすすめかた
 ・作業自体におおいに意義がある
 ・まずは抜けがあってもデータを作成することが必要。NOTEに情報をためておき、のちに腑分けすることもできる。
 ・wikiを作成して、共同作業を行う
 ・会員外の研究者・出版人の持つ情報の集約はどうするか
 ・出版社に協力してもらうことはできないのか 

・参考資料
 ・既存のデータベース、名簿等の活用、奥付の利用
 ・国立国会図書館リサーチナビ「出版人の履歴を調べる」
 ・千代田区図書館の出版資料(社史等)の有効活用
 ・人事興信録、商工会議所の情報 等

 全般に大きな関心をもって受け止められ、終了後の懇親会でも多くのアイデアが提案された。またデータベース化と利活用にあたっては、ワークショップ終了後に、国立情報学研究所の高野明彦教授を訪問し、具体的な助言を得た(2017年8月4日、飛鳥・柴野)。出版史研究部会と関西部会協同で、引き続きプロジェクト実現に向けた活動を継続したい。

(文責:柴野京子)