《ワークショップ》 出版研究と大宅壮一文庫――ネット時代の雑誌専門図書館のあり方 (2018年5月 春季研究発表会)

《ワークショップ》 出版研究と大宅壮一文庫――ネット時代の雑誌専門図書館のあり方

司会者: 塚本晴二朗 (日本大学)
問題提起者: 大道晴香 (國學院大學)
討論者: 鳥山輝 (大宅壮一文庫)

 問題提起者は,以下の点に言及することで大宅壮一文庫の重要性を主張した.

(1)「雑誌」という研究対象の有効性について
 昨今,「雑誌」の学術的な価値が広く認められ,一定の地位を獲得しており,これを活用して多くの優れた成果が提出されている.「雑誌」の中でも週刊誌や女性誌のように刊行ペースが早く,一度読んだら廃棄されてしまうような媒体は,意識的に「残そう」としない限り,我々の手の届かないものになってしまう可能性が高い.消費を至上命題とし,純粋に娯楽を追求するこれらの媒体は,一見チープで研究の価値など無いように思われるかもしれない.だが,卑近であるからこそ,よりリアルで生き生きとした大衆の希求を映す鏡の役割が期待出来よう.大宅壮一文庫は,一般誌や女性誌を重点的に収蔵する,「雑誌」に特化した専門図書館である.「雑誌」への特化,これはすなわち大衆への特化,我々のリアリティに寄り添った資料の収蔵という,何ものにも代えがたい特性を表している.

(2)研究対象の選択に係る恣意性の排除
 毎年1万冊以上の雑誌を受け入れる大宅壮一文庫では,記事の見出しのみならず内容にも目を通したうえで,抽出した項目を体系化し,索引およびデータベースを構築している.検索に際しては当然漏れ出てしまう記事もあるわけだが,重要なのは,「雑誌」(とりわけ大衆誌)に特化し,媒体の性質をあらかじめ均質化したうえで,そこに記事内容にまで踏み込んだ,一定の検索システムが整備されている点である.一定の検索基準が確保されていることで,資料の選択に係る恣意性を排除することが出来,研究における客観性が担保される.ゆえに,大宅壮一文庫のデータベースおよび索引自体が,世相を示す指標としての役割を果たしている.

(3)明治からの蓄積,資料の充実
 大宅壮一文庫では,明治時代から現在まで1万種類の雑誌を所蔵している.インターネットでの情報収集に重きが置かれつつある昨今だが,そこで得られる情報というのは,「今」に特化した限られたものであり,内在するまなざしも特定の時期以降のものとなるため,過去のことを知るのは難しい.明治にまで遡って情報を検索することの出来る大宅壮一文庫は,インターネットでは得られない知識の宝庫であり,我々は人物や出来事,特定のアイテム,言葉など,あらゆる観点から大衆の歴史というものを思い描くことが出来る.

 討論者は,大宅壮一文庫を経営する側の立場から,以下のような点について述べた.

(1)大宅壮一文庫の現状
 公益財団法人「大宅壮一文庫」は1971年,世田谷区八幡山の大宅邸を改造して創設された.大宅が生前収集した17万冊の雑誌を引き継ぎ,現在は明治以降に刊行された1万種類,78万冊の雑誌を所蔵している.マスコミ関係者の利用が9割を占め,順調な経営が続いていたが平成以後はネットの普及や出版不況の影響を受けて利用者が減少した.

(2)日本出版学会やマスコミ研究者に望みたいこと
 学生ボランティアを募集するとか助成金を得るという索引データ化増強策は可能か?18年度から「特別研究員制度」の新設を検討している.等
 フロアからは以下のような発言があった.
 特別研究員のような制度を作り,自由に使用できたり,文庫内ツアーや教育パッケージは有効ではないか.小中高の社会見学的なものも行うべきではないか.
 雑誌は研究資料として貴重であり,web検索が可能な大宅文庫は貴重である.むしろ無料で開放し,寄付を募ってはどうか.使い方のレクチャーは大事である.ネットで繋がっているということは,世界中の人が使用できるという事であって,日本文化の研究者は日本人だけではないことを考えれば,極めて貴重な施設である.
 以上のように,大宅壮一文庫は,出版研究者にとって,なくてはならないものであり,維持していかなければならない.そのためにも,このワークショップは切っ掛けであって,これで終わりにしてはならない,という方向で,今回は終了した.
 参加者40名(本学会のワークショップとしては極めて多数の参加者であることを申し添えさせて頂く)

(文責:塚本晴二朗)