「日本における電子書籍化の現状(2020年版)」鷹野凌・堀正岳(2020年9月12日、春秋合同研究発表会)

日本における電子書籍化の現状(2020年版)
――国立国会図書館所蔵資料の電子化率調査

 鷹野 凌(NPO法人HON.jp)
 堀 正岳

 
1.研究目的
 出版科学研究所によると、2019年の電子コミック市場は2593億円(前年比29.5%増)と急増しているのに対し、電子書籍(文字もの)市場は349億円(同8.7%増)にとどまっている。この違いは、電子化点数や電子化率の差にあると考え、安形輝と上田修一(日本図書館情報学会、2019)の先行研究を踏まえ、印刷本のうち電子書籍版が提供される割合の、全件を対象とした分析を行った。
 
2.研究手法
 印刷本の書誌は、国立国会図書館書誌全件ファイル DC-NDL(RDF)形式(2020年1月29日時点:以下、NDLデータ)を使用。NDLデータのうち、ISBNが存在するのは3,284,996件。そのうち、刊行言語が日本語で年号が存在する2,623,535件を対象とし、ISBNをキーとしてマッチングを行った。
 電子書籍の書誌は、電子書店「BOOK☆WALKER」の全商品RSS(2020年2月15日時点:以下、BWデータ)を使用。「BOOK☆WALKER」はKADOKAWAグループの株式会社ブックウォーカーによる運営で、オープン当初は同グループの電子書籍だけを配信していたが、2012年から方針を転換、2013年から本格的に他社の電子書籍も配信。現在は出版社横断型の、書籍もマンガも扱う一般的な総合型電子書店である。BWデータ655,455件のうち、ISBN有は357,484件。ISBNの無いものは、分冊版、ボーンデジタルの写真集や自己出版作品など。
 なお、BWデータに存在するのは電子書籍版の配信年のみで、その電子書籍の底本(印刷本)出版年とずれている場合が多い。そのため、ISBNでマッチングした上でNDLデータを参照、印刷本出版年毎の電子書籍化率を算出した。
 
3.研究結果と知見
 BWデータのうち、NDLデータにISBNでマッチングしたのは313,120件(87.59%)。ISBN有・日本語・年号有のNDLデータに対し、電子書籍化率は11.9%という結果となった。印刷本出版年毎の電子化率を図1に示す。

 出版年が2017年のタイトルは、電子書籍化率29.6%、2018年は31.2%、2019年は33.2%と、徐々に電子書籍化率は高まっているが、それでも直近年で全出版点数に対して3分の1程度である。なお、安形、上田(2019)論文との差は、Amazon Kindle独占で配信しているケースや、学術系でMaruzen eBook Libraryのみで配信しているなどといったケースが考えられる。
 次に、BWデータのジャンルおよび底本の出版年で、電子書籍の配信点数を図2に示す。

 マンガは、印刷本の出版年が古くても電子書籍化された点数が比較的多いが、他ジャンルは少ないことがわかる。これは、スキャン画像をそのまま電子書籍として利用できるマンガと、OCR等でテキストデータを新たに作成する必要があるマンガ以外の書籍との差異によるものと考えられる。また、2010年以降については、文芸・小説・ライトノベルの点数に対し、実用ジャンルが上回った。
 
4.課題
 本手法により、電子書籍化の実態をより精緻に把握することができた。ただし、ジャンル別での集計や、出版社別での集計は、課題が残った。NDLデータに存在するNDC分類などの項目は、中身の存在/不存在がバラバラなため集計に使えない。Cコードが存在しないため、他のデータからマッチングする必要がある。出版社名はリテラルで収録されており、表記揺れもあるため集計は困難である。そこで、今後はISBNに含まれる出版社記号(桁数が異なる)での集計手法を確立する必要がある。