《ワークショップ》「出版フィールドワークプロジェクト」(2025年5月31日、春季研究発表会)

 出版フィールドワークプロジェクト
 ――もうひとつの出版学

 問題提起者/インタビュイー:
  榎本周平(出版営業、出版フィールドワークプロジェクト)
 討論者/インタビュアー:
  石岡丈昇(日本大学)
  其池勇気(出版営業、出版フィールドワークプロジェクト)

 
 出版業界の知られざる歴史を書き記し、出版学会に若手の受け皿をつくることを目的として「出版フィールドワークプロジェクト」を立ち上げることとなった。出版業界に入りたての若手が、出版人―書店、出版社、取次、エージェント、印刷所など出版にかかわるすべてのステイクホルダー―にインタビューを重ねていくという試みである。今回はこのプロジェクトのパイロット版として、社会学者・石岡丈昇氏に「聞く技法」を学びながら、同じく出版営業に携わる其池勇気とともに、榎本周平にインタビューを行った。
 これまでの出版人へのインタビューは「何をしてきたのか」という業績について語られることが多かったが、本プロジェクトはその業績だけでなく、日々の業務についての具体的な行為について記録していくことで、出版業界の実践知や暗黙知とされているものを明らかにする試みである。その記録を単体ではなく、複数蓄積していくことでこれまで見えてこなかった業務の内容が見えてくるだろう。また、若手が聞くことで言語化されてこなかった行為について、より具体的な語りで記録されることによって、若手たちの日々の業務解決にも役立つものを目指していく。
 パイロット版のインタビューでは、出版業界については素人ではあるが社会学者としてフィールドワーカーとしてインタビューのプロである石岡氏ならではの素朴だがクリティカルな質問が多くあった。朝は何時に出勤するのか、まずは何をするのか、どういう場所で働いているのか、編集とはどのように交流をはかるのか、自社本についてはどれくらい知っているのかなどという個人に対する質問から、あまりに多い新刊点数についてどういう施策をとっているのか、なぜ競合しているはずの他社と共同することができるのかなど業界の特性についての質問まで、多岐にわたった。個人の業務の話から業界との接続の話となり、また個人に戻ってくるという聞き方はより聴講者の興味を引き立たせるものである。また、感情についての質問を排除することによって(いちばん嬉しかったことや辛かったことなど)、行為を通してインタビュイーの人柄を引き出す。業務を通した共感とアンチパシーを感じることができ、仮に榎本以外の営業担当に同じ質問をした際に、回答の差異がインタビュイーの特異性ではなく、業務への取り組み方や方法の違いとして立ち現れ、多くの人にインタビューをする意味が発生する。
 今回のワークショップでは上記の点が明らかになったことで、本プロジェクトが目指すコンセプトと方法を示すことができた。聴講者の質問も具体的な業務の質問に及び、活況であった。特に「仕事をする上での7つ道具は?」という質問は、全員に聞く共通の質問として採用したい。モノを通して業務が、その業務に対してどう向き合っているのかが浮かびあがる。共通する道具が他のインタビュイーから出てくることがあれば、あるいは全く別のモノであっても、おもしろい。今後についても質問が及んだので、それについて最後に。今回は2人がインタビュアーをつとめた。知った仲であることはさっぴく必要があるかもしれないが、非常に朗らかに進んだ。インタビューをされる側の感想としては目のやり場が2つあるので気持ちが楽になった。また、1人の質問がつまった場合に、もう1人が質問をはさむことができ、スムーズに進めることができ、別の視点が生まれて話に奥行きが生まれるのを感じた。今後は2人体制で、またインタビュイーが編集者の場合は編集者ともう1人は編集以外、など同じ業務に就くものと、そうではないものの2人体制で行っていく。今年中にいまのところ2名のインタビューを予定しており、近日中にアーカイブする場をつくり、誰でもアクセス可能にしたい。しばし待て。私たちが出版史を紡ぎ、実践というかたちで継承する。

文責:榎本周平(出版フィールドワーク プロジェクト代表)